旭硝子
林英男
AGCモノづくり研修センター所長
旭硝子は7月、鶴見の京浜工場の隣接地に、総工費約15億円を投じて「AGCモノづくり研修センター」を開設した。業績好調が続く一方で、社内の高度技術者や熟練技能者の人材不足が深刻化。生産性向上が進まず、事業拡大や新規の事業開発に対して技術者や技能者が足りない。この現状に強い危機意識をもったことがセンター建設のきっかけだった。
人材不足の危機
2000年に経営方針として掲げた『Shrink to Grow』により、旭硝子は伸びきったところを絞り込んでコア事業に集中する一方、多面的な取組みを整理していった。国際競争力の強化の掛け声のもとにコスト削減がテーマとなり、人員のスリム化も進めた。そのShrink を経てGrowを目指そうとした段階で、気がつくと高度技術者や熟練技能者の不足に陥っていた。
ビジネス環境ではフラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス基板の強い引き合いに対応して、生産設備の拡張が不可避となった。プラズマディスプレイ用ガラス基板の製造に加え、ホウ珪酸ガラスを用いる液晶ディスプレイ用ガラス基板製造にも特殊な窯が必要だ。それらFPD専用窯を国内、海外に展開する決断を迫られるに及んで、その立ち上げに必要な技術者も技能者も足りず、その人材育成も速成は難しい。現状では、苦労を重ね生産設備の増設に何とか人材供給を追いつかせている状況だ。
さらに、難度の高い生産品目が増えると、適合する条件を設定した設備であれば、現場でもなかなか触りにくくなる。少しでも制御を変えれば、品質に影響するからだ。その結果、現場であってもオペレーションの訓練機会が減ることになった。またかつては停電が起きるたびに、設備全体の立ち上げに大変な手間がかかったが、近年は停電しなくなった。すると、万一停電が発生した場合、対応できる人間がいないという事態も想定される。建築用板ガラスの生産では、1930−40年代であれば生産を止め、中のガラスを全部出して窯を入れ替える「冷修」を3−5年おきに実施していた。が近年では、炉材の品質と制御技術が向上して、窯の寿命も10年を超えるようになり、これに伴い、「一生に1〜2回しか窯の内部を見ない、技能を持たない技能者になってしまう」という危機感が募った。
実物で現場力をつける
門松新社長が『JIKKO(実行)』という新方針を打ち出し、そのなかで「モノづくりへのこだわりと現場力の強化」という経営課題を明らかにした。これを受けて、モノづくり研修センターは現場、現物に近い状況を作り込んで、工場現場ではカバーできない部分を実習体験できる施設として立ち上げた。
研修センターは現場を再現する。実習棟には、築炉設備として、ガラス窯やメタルバスの実物を据付ており、図面やのぞき穴から見るだけの概念的、部分的な理解を超えて、その内側の構造全体が実際に見れる。さらに、窯やメタルバスが実際に稼動した状況を仮想的に再現するソフトウエアの開発にも着手している。この体験理解を通じて、窯設計や生産性の向上につなげたい。
旭硝子の《光》
竹中工務店の施工による研修棟とその内装は、旭硝子の《光》をテーマにガラス材と光の7原色のオブジェや什器を多用している。オフサイトミーティングや新入社員後期教育の参加者、現場の第一線で働く技能者や技術者にとって、工場やオフィスとはひと味違った集合環境を提供している。社内カンパニーの開発報告会、板ガラスの日ア・欧・米3極会議なども含めてすでに延べ人数で7月には1,500人、8月2,000人、9月2,500人がセンターを利用した。グループ企業、事業部、中央研究所などタテ組織構造の中で、技術者と技能者の人材教育に関して1本の横串を通したことにセンター開設の意義があるだろう。
人に投資し、人に蓄える
有能な人材の蓄積した知識、技能を、グループ組織枠を超えて流通させる試みも開始した。7月21日付けで高度技術者20人をプロフェッショナル、卓越した技能者4人をマイスターとして公表。処遇制度と連動させる一方、卓越した技能者には後継を育てることや、他部門での指導力にも期待。センターではプロフェッショナル、マイスターとの交流会を検討している。来年からは旭硝子グループに輪を広げ、またアジア拠点も取り込んだ教育活動に拡大する計画だ。
(聞き手:甲斐真一郎)
プロフィール:
ハヤシ・ヒデオ
81年旭硝子入社。板、自動車、FPD等のエンジニアリング業務を工場、本社で担当。04年経営企画室にて技術・技能の強化、伝承活動を企画・推進。06年7月AGCモノづくり研修センターをオープンし、現職。
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