Calamities 本当にあった事故例

欠陥フライトディレクタースイッチ訴訟

[2007年02月号]

この記事を :  印刷する プリントする ブックマーク  はてなブックマークに登録 この記事をクリップ! Buzzurlにブックマーク Yahoo!ブックマークに登録 メールで送る メールで送る
 ボストンLogan空港の水際まで続く滑走路:護岸の防波堤が滑走路を大海の嵐から守っている。1973年、視界の悪いなかで小型の民間ジェット機がLogan空港に着陸しようとした。進入角度も深く、速度も速かったために、同機は墜落した。機体は護岸の上部に接触してひっくり返り、滑走路上を横滑りし、火災を起こした。唯一の生存者も少し後に亡くなった。

事故現場
 航空会社はこの事故の原因をパイロットの操縦ミスとし、乗客の損害賠償請求もそれに基づいて処理を進めた。したがって、この事故は雇用者を相手取った訴訟ができない労災に該当した。運航乗務員が起こした訴訟では、この事故の原因をいわゆるフライトディレクタースイッチ(FDスイッチ)の不調とし、連邦航空局FAA(Federal Aviation Administration)のコントロールの弱さと高度計の誤差がそれを助長したと申し立てた。それらの原因がもとで無防備な乗務員たちが護岸に突入してしまったという主張だ。裁判所はその申し立てを棄却し、原因は操縦士と副操縦士の操縦ミスにあるとした。

 原告側は控訴した。控訴審ではフライトディレクターが明らかに機能していなかったことは認めたが、原告側の主張の正当性を証明することは事実上できなかった。この訴訟はボストンの連邦裁判所に差し戻された。

 最初の裁判官は先入観と偏見により資格を失い、この訴訟は新たな裁判官に受け継がれた。私はこの時点で金属学コンサルタントの役割でこの訴訟に参加した。

原因究明
 FDスイッチには5つのデッキがある(FDスイッチの図については、http://rbi.ims.ca/4943-600を参照)。丸い部分(固定子)は動かず、他の部分は動く。スイッチはさまざまな電子信号を取捨選択し、ピッチ角やバンク角のような重要な着陸データを提供するために回転するようになっている。

 私のクライアントは‘アーク放電とスパーク’が接点間で金属粒子のショートを引き起こしたと主張した。それによって、例えば表示されていたピッチ角やバンク角が誤った数値になり、パイロットにとって不可欠な情報が奪われてしまった。

 ガソリンエンジンの点火装置と同様に、接点が開放された時に静電気放電を起こす可能性もある。結果として生じた電気アークが強力で、アーク溶接の場合のように金属粒子を溶かす可能性もある。このような不良粒子が所々に溶着し、それが回路の短絡等の問題を起こす。このような影響を最小に抑えるためのスイッチ回路の設計責任は電気技師にある。

 厳密な非破壊検査を行うために、分解されたスイッチが私に提供された。主要な分析ツールは走査型電子顕微鏡SEM(scanning electron microscope)だった。SEMの焦点深度によって光学顕微鏡では得られない倍率で粗面の詳細な分析が行なえる。SEMには対象部分を化学分析するための付加機能もある。ローターの接点が銀とカドミウムの合金であることが分かった。この合金は、接点溶着を防ぐ理由で一般的に使われる。5つのデッキの接点はどれもひどい孔食があり、異質の粒子の溶着も見られた。スイッチはかなりひどい形状だった。

決定的証拠
 そのスイッチは私の手元に来るまでに何人もの人の手を経ており、軽度の溶着粒子はなくなってしまっていた。しかし、訴訟の終盤で私は同様の使用履歴を持つ同じモデルのスイッチを分解する機会を得た。そしてその内部の有様に私は驚愕した。その接点は危ないところだった。一面にスパークによる銀合金の太いウィスカがあった。ショートは確実だった。

 この頃、被告側のスイッチ・メーカーは新たな法定弁護団を雇った。その法律事務所は飛行機事故の案件には疎かったが、訴訟の和解処理には長けていた。当時、不法死亡に対する仲裁裁定は25万ドルが最高だった。被告側は訴訟を続けることによる弁護料と悪評は無駄と考え、和解することに決めた。

 その訴訟には新たな連邦裁判官が指定されたが、その裁判官は法律家というより和解調停でよく知られていた。訴訟は審理の前に決着し、私にも十分な謝礼(当時としては)が文句もなく支払われた。このことから、私は仲裁調停が最高の調停額に近かったものと考えている。



Kenneth Russell 米マサチューセッツ工科大学 名誉教授
Kenneth Russell 米マサチューセッツ工科大学 名誉教授 Ken Russell氏(kenruss@mit.edu)は米マサチューセッツ工科大学の金属学及び原子核工学の名誉教授である。彼は金属物理学、法金属学、故障解析を専門としている。今回紹介されたケースは彼の法的ファイルより引用した。

この記事を :  印刷する プリントする ブックマーク  はてなブックマークに登録 この記事をクリップ! Buzzurlにブックマーク Yahoo!ブックマークに登録 メールで送る メールで送る

Sponsor Links

Partner Solutions

DNJ RESOURCE CENTER

PTCジャパン株式会社
【PTC/Mathcad】表計算ソフトを越えて計算の作成と文書化に適したソリューションへの移行

資料一覧を見る この資料をダウンロード