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PS3の挑戦
妥協なしの高速処理と冷却技術
[2007年03月号]
ハイテク、高コスト
「当初の販売価格が製造原価を下回っているのだから、機械の価格が印象的であることも不思議ではない」とPratt氏は言う。
ソニーは原価の問題はまったく気にしていないようだ。「効率化は将来実現する」と言い、製品のライフサイクル全体で見れば原価は必ず低下すると考えている。さらに、ソニーのエンジニアによれば、現在のレベルよりも原価を落とそうとすると、SCEのCEO久夛良木健氏が立てた技術的目標を達成できなくなってしまうという。
「久夛良木氏は、ネットワーク経由も含めてつながった複数のシステムにより強大なコンピュータパワーを得るという構想を持っている」と、SCEスペシャルプロジェクト担当マネジャーのRichard Marks氏は言う。「ゲームのクリエーターにはいかなる制限もあってはいけないと、久夛良木氏は望んでいる。クリエーターが思いつくアイデアはすべて実現させたいというのだ」
さらにソニーの幹部は、人を完璧に引き込む不自然さのない虚構の世界に、ゲーム機のユーザーをのめり込ませたいと望んでいる。
「要するに、ユーザーにとって有無をいわさないような体験であることだ」とMallinson氏は付け加える。「その実現のためにはユーザーに自分がしていることに疑念をおこさせてはならない」
しかしそのためにソニーには厳しい決断が必要となった。技術をHDTVレベルまで上げるか、それとも標準解像度のアプローチを続けるかの決断である。最終的には実用主義にもとづく決断になったと、エンジニアたちは言う。
「2001年時点の見込みでは、2006年あたりではHDが急速に発展しているだろうと判っていた」とMallinson氏は言う。「まさにその通りになった。いまでは誰もがHDTVを買っている」
しかし、解像度が上がると厄介な問題も生じてくる。HDディスプレイは、標準テレビ(SD)とくらべて画素数がおよそ12倍になるのだ。画素数が増えるとさらに大きな演算能力が必要になるとエンジニアは認識した。そのうえ、使用画素数を増やしたこの開発計画には、解像度の向上だけではなく、シミュレーションの改良も含まれていた。ソフトウエアエンジニアは、ゲームソフトに最新の物理シミュレーションを導入する計画をたてた。物理シミュレーションの導入により、雨粒の落下やガラスの破壊のような単純なアクションでさえリアルに見えるようになり、より『コンピュート・インテンシブ』(大規模演算志向)になる。
「昔のゲームでなにかを壊すときには、事前に算定しておいて、壊れたものが地上に落ちて跳ね返るありさまを表した」とMallinson氏は言う。「しかし、現在はその方法では解決にならないことがわかっている。いまでは、個々の破片がどのように相互に干渉し、跳ね返るのかについて、より正確なシミュレーションを行わなければならない」
プレイステーション2を越えて
ソニー、東芝、IBMの3社は3.2 GHz駆動のSTI Cell Broadband Engineを共同開発した
「プレイステーション2を完成したとき、標準的なコア技術を使う限りここから先には進めないことを実感した」とMallinson氏は話す。
ソニーはこの要求を満たすため、東芝、テキサス州オースティンの工場に拠点を置くIBMシステムテクノロジーグループとチームを組んだ。そしてエンジニア達は、IBMの64ビットPower PCコアの上に、SIMD(Single-Instruction Multiple-Data、単一命令複数データ型)アーキテクチャに基づく7個の専用コプロセッサを持つ、マルチプロセッサ型CPUを作り上げた。Cell Broadband Engineとして知られるこのデバイスは、データ・インテンシブな処理を行うアプリケーションを対象にしている。具体的には、暗号処理、先端科学研究、そしてゲームなどである。
ソニーのエンジニアは、SIMDアーキテクチャはPS3に最適であるという。その理由は、3次元空間でのグラフィック処理に適しているからであり、特にビデオゲームのキャラクターの動きなどでよく発生する、ある3次元座標情報が別の3次元的座標に追加される場合などに適しているからである。
「最新のプロセッサにはSIMDアーキテクチャを有しているものが多くある。しかし我々のものは最高のSIMDとして設計されている」とMarks氏は言う。「さらに、SIMDの上に特別な数学的ライブラリを構築して、能力の増強を図っている」
3.2GHz動作のCellプロセッサを補強するRSXグラフィックチップの開発は、NVIDIA社とソニーの間での年間1500人にもおよぶ共同作業の成果であり、3億個のトランジスタを内蔵し、浮動小数点演算能力は2TFLOPSにも及ぶ。RSXチップの高い性能のおかげで、PS3は大画素数の要求にも窒息せず、高負荷の物理シミュレーションの要求にも耐えられる。さらにRambus社とのXDRメモリーとFlexIOインターフェースの共同開発により、PS3には2本の広帯域チャンネルが備わり、帯域幅は毎秒65Gバイトという驚異的な性能を得ることができた。
このような並外れた速度をPS3に与えるという決定は、いかにもやり過ぎのように思われる。ソニーのエンジニアもそれは認めている。ただしこのシステムの将来のためにはまったく妥当だという自信も持っている。
「システム設計にあたってこのような極端な目標が与えられた場合、十分理解しておかなければならないのは、数年後にはその目標は極端でもなんでもなくなってしまうだろうということだ」
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