研究開発=両極から見えるもの

第4回 低速と高速

[2007年06月号]

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図 高速機と低速機の主翼形状

 乗り物は歴史的には高速化に向かってきた。航空宇宙分野ではスペースシャトルや人工衛星などを含めると、かなりのスピードで飛行する水準に達している。鉄道の方も新幹線を始めとして、今日でも高速化に向かっての努力が続けられている。高速化によって経済活動は活発になり、生活は大変便利になった。国内的には新幹線が典型で、東京大阪間は日帰りでの出張が可能となった。また航空機での出張もごく普通のこととなり、隔世の感がある。航空技術の発達は海外旅行を日常茶飯事のものとし、国境という概念が時代錯誤になりつつある。今日では、どこそこに住んでいると言う場合、国が問題になるより、どの町どの地域という方がより重要であろう。交流が活発になったため、世界各地の実情を各人が知ることになった。


経済・環境問題と低速化

 ドイツのアウトバーンでは猛スピードで自動車が走行している。助手席でその速度を体験したが、走行中無意識にずっと手を前に押しつけたままだった。自動車にはもっとも経済性が優れる走行速度があると考えられるが、アウトバーンでは時間的な意味での経済性を優先しているのだ。環境意識の高まりから、ドイツのみならず世界各地においても、適正な速度で走行することが要請されるようになるであろう。

 航空機の例では超音速機の問題が有名である。コンコルドはほぼ満員だったと本で読んだことがある。経済的には成立していなかったと言われている。乱暴な見積もりでは、速度が倍で時間は半分、抵抗は速度の二乗に比例して4倍、エネルギー消費率は速度の三乗に比例して8倍。時間が半分でも、結果として4倍のエネルギー消費量となる計算だ。運行側が燃料費に困るのは本質的なものだったのだ。米国勢は軍用機の経験から、超音速機が経済的にもまた騒音などの環境問題から、一般論として商用には向いていないことをよく知っていたように見受けられる。現在も亜音速機が主流で、音の壁は打ち破られたが、経済と環境の壁が超音速機の商用化を阻んでしまった。これは自然や社会からの強い警告であるとも理解できる。ビジネスの場合、技術限界だけで物事を判断してはいけないことの典型例だと言える。

 航空機が飛行場近くで待機飛行するような場合は、速度が十分でないので揚力を増すためにフラップを降ろしていることがある。空気を下に吹き降ろすことに伴う抵抗が発生する。さらにゆっくり水平飛行しようとするとますますこの抵抗が増大してしまう。水泳で速いクロールより遅い犬かきの方が疲れるのとよく似ている。水平に浮かんでいようとすると、低速側でも航空機の抵抗は増大するのだ。このような訳で航空機にも最適速度、いわゆる巡航速度があり、一説ではプロペラ機の速度が経済的には良いらしい。

 鉄道と航空機の経済性比較の議論も興味深い。乗り物だけでは鉄道に分がありそうだが、地上設備の維持管理や人を考慮すると、ただで保守の不要な空路を使う飛行機との比較は錯綜しそうである。同じような料金で運行しているところを見ると、大差は無いのかもしれない。

環境適合

  技術から経済性へ、経済性から環境適合へと移行している昨今であるが、自然との調和を大切にしてきたわが国の知恵が大いに生かされる時代になったと言えよう。



森下悦生
モリシタエツオ 1949年三重県生まれ。東京大学工学部航空学科卒、同大学院修士課程修了、ケンブリッジ大学工学部修士課程修了。1974年三菱電機に入社、スクロール圧縮機の研究開発などに携わる。1993年より現職、東京大学大学院航空宇宙工学専攻、教授として教鞭を取る。

●著者連絡先
tmorisi@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp

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