Calamities 本当にあった事故例

力学法則に反したむち打ち訴訟

[2007年08月号]

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 1987年製オールズモービル88が信号で停車しているトレーラの後部に追突した。トレーラのドライバーが言うには、彼の背後には長い自動車の列があり、彼はステアリングホイールに打ちつけられるほどの力で背後から追突され、むち打ちになったというのである。彼は訴訟を起した。私は被告側に雇われて衝突の力が原告の主張するような傷害を起こす可能性があるのかどうかを判断した。

現場の状況
 私は事故現場を訪れ、その事故に関わったトレーラと自家用車(当時修理中)の両方を精査した。事故の後に撮影されたこの自家用車の写真も見た。車の前部はかなりつぶれていたが、損傷はラジエータおよびファンまでは広がっていなかった。

捜査内容

 オールズモービルのドライバーは、セレクターを“ドライブ”にした状態でブレーキに足を乗せて停止していると、エンジンが激しく吹きあがり、車が前に突然動いて、トレーラに衝突したと主張した。私はドライバーがブレーキではなくアクセルを踏んだために追突したのだと考えた。

 オールズモービルが衝突したのはトレーラのいわゆる“シーシーバー”であった。これは車両がトレーラの下にもぐりこむことを防止するための器材である ICCバーの俗名である。主張によれば、衝突によってこのICCバーが曲がり、この車のバンパーに押されて、右リアタイヤの泥よけがリアタイヤに突っ込んだ。そしてこの衝突によってドライバーはむち打ちになったとしている。ICCバーは実際に曲がっており、泥よけも損傷していた。

 このむち打ちの申し立ては、いくつかの点においてでたらめなものであった。図はトレーラ後部および自家用車前部を側面からほぼ一定の縮尺で示したものである。この図を見ると、自家用車のバンパーによって泥よけがタイヤに当たるようであれば、ICCバーに押されてラジエータがエンジンファンにぶつかることがわかる。しかしラジエータもファンも損傷していなかった。

 ICCバーは自家用車のバンパーから約200mm(8インチ)以上離れており、自家用車の運動エネルギーは薄い金属板とグリルおよびその周囲のプラスチックだけで伝達されたのである。自家用車のバンパーはICCバーにもタイヤにも接触していないので、フレーム同士の接触はなく、深刻な衝撃が伝達されることもなかったのである。このICCバーは、トレーラのドライバーが荷の積み下ろし場にトレーラをバックさせた際に曲がった可能性が高かった。私は類似するICCバーを調査したが、どれも当該バー同様に曲がっていた。

 さらに、原告の主張はニュートンの運動の法則に反するものである。トレーラの後部に強い衝撃があれば、ドライバーはシートに押しつけられるのであって、主張のようにステアリングホイールに打ちつけられることはない。

 私は法廷で、自家用車のバンパーがトレーラのタイヤに当たって深刻な衝撃をもたらすことはできなかったことや、接触したのは薄いボディ材料だけであることを説明した。さらにアイザック・ニュートン卿を引き合いに出し、非常に気持ちよく法廷を後にした。しかし、私たちはこの訴訟に敗訴したのである。


この図はオールズモービルのドライバーにむち打ちに対する責任がないことを示している


動かぬ証拠

 依頼人の法律家補助員によれば、原告の弁護士は巨大な飛行機がその胴体に取り付けられたフックだけで牽引されていることを引き合いに出した。薄い金属だけで巨大な飛行機の重量を支えるのだから、あの事故でも薄いボディ材料が深刻な衝撃をもたらしたはずである。陪審員はこの説明に納得し、私の証言すべてを無視して、この点において私が間違っていると結論付けた。実際には、牽引のための力は胴体内部にある構造材に伝達されているのであるが、被告側弁護士はこの点をなぜか説明しなかったのである。



Ken Russell氏 米マサチューセッツ工科大学 名誉教授
Ken Russell氏 米マサチューセッツ工科大学 名誉教授 Ken Russell氏(kenruss@mit.edu)は米マサチューセッツ工科大学の金属学及び原子核工学の名誉教授である。彼は金属物理学、法金属学、故障解析を専門としている。今回紹介されたケースは彼の法的ファイルより引用した。

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