▼モノづくりFORECAST

湯浅 英樹 氏 
富士通 産業・流通ソリューションビジネスグループ PLM事業部 事業部長代理

複合領域の設計とノウハウのIT化

[2007年09月号]

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ユアサ・ヒデキ
1974年、京都大学理学部物理学科卒業後、富士通入社。構造解析システム開発を経て、78年よりCADシステム開発を開始。以降、機械、電気系のCAD、PDM、DMUなどPLM開発に従事。03年より現職。

 富士通が3Dモデルによるバーチャル・プロダクト・シミュレータVPSを開発した背景としては、設計者が直面する問題が複合化してきていることが挙げられる。一番ホットな問題は、メカだけでも、電気系だけでも、ファームウエアだけでも解決できない。これからの製品の開発設計には、それらの相互のせめぎ合い領域が大事になってくる、という見通しがある。

複合領域の設計支援
 例えば、電気系でプリント基板を実装すると電磁波が発生する。その対策にはどういうシールドが必要かを考えるとメカの設計に影響する。回路が変形するフレキシブル基板と電波のインターラクションをどう設計するか。またサーバー製品の静音性を実現しようとすれば、空冷ファンの音をいかに抑えるかはメカ的な配置の問題であり、音を出しにくいファン部品の機構設計であり、一方ではファンの電気的性能が発熱に絡む。音と電気とメカ実装の絡みをシミュレーションで測ることができないか。

 ソフトウエア開発に関連して、開発対象とするファームウエアはメカ制御を目的とするソフトウエアなので、メカとファームの関連性をバーチャルで検証するニーズが生じる。ちなみにメカとファームの連成シミュレーションはVPSが業界で初めて実現した。

 VPSはこれらの複合領域、境界領域を対象として、実際にはモノを作らずに、バーチャルにコンピュータ上で最適設計を探る。IC系、ファーム系、複雑メカ系など多様な技術領域に渡りモノづくりに関わる人の数は多く、VPSではその英知を結集し、設計開発の最適解を追及したい。そこは日本的な開発風土のなかでは、世界的にも強くなる可能性が開けている。

暗黙知と形式知の間
 ITの観点から5年後のモノづくりを見通すときに、人間のノウハウをいかに可視化して製品のなかに活かしていくかが重要になる。これまでのモノづくりの2D、3Dツールは形にできるものしか扱っていない。しかし形になる前の人の智恵こそ大事で、これをいかにIT化して提供できるかという課題が残っている。ノウハウのIT化による利用の実現まで、これから20~30年かかると予想している。

 モノづくりの暗黙知はエンジニアの暗黙知として人のなかに残る。しかし暗黙知と形式知の中間領域として、すでに形式化されているようで本当の智恵としては活かされていないといった知識はモノづくりの世界にはあまたあるといわれている。そこをいかにITで掬い上げて、設計技術、生産技術の人に伝えていくかが課題になる。

 例えば、ユーザーからのクレーム(苦情)情報がある。どの企業でも組織内ではその情報のキーワードのデータベース化・形式化はまず間違いなく遂行されている。その中には次の製品化に役立つ情報がきっと埋もれているだろう。しかしそれをどう掬い上げ開発に役立てるかは、容易でない。

 VPSには製品の設計段階での不具合やミスなどデザインレビュー情報の蓄積機能がある。その当該製品の設計にとっては役立つが、それを次のステップとしてバーチャルにどう再利用するかに取り組んでおり、先般「ナレッジシェア」を製品化した。

 ある電機会社の開発現場の試作工程で、起こるトラブルの約8割は以前に起こったものの繰り返しだと言われている。小さなトラブルでも、その経験がしっかり伝われば、無駄な繰り返しを減らすことができる。その時間をより創造的な活動に振り向けることも可能になる。

 また不具合の結果だけが伝わっても、現場のエンジニアに不具合の理由が理解されていなければ、不具合の追体験をする場合が多い。その理由の追求と原因の特定も、日常の開発設計の過程では実現できないケースがほとんどだ。

 また業種によって、製品開発に役立つ情報のあり方も異なる。ガソリン車といえば、基本的な動き方はほぼ決まって成熟している。他方、携帯電話は一見、機能が決まったように見えても、実は次にどんな新機能が組込まれるか分らない。筐体の材料が変るたびに強度が変るから、設計ルールも変る。

生産プロセスのIT化
 一方、生産技術、生産設備、工場全体の設計など生産プロセス・エンジニアリングの領域にも今後スポットライトがあたるだろう。プロセスの設計領域は様々な人知、ノウハウの蓄積がある一方で、IT化が機能する余地がまだ大きい。そうなると数百万オーダーの部品管理や、3Dデータを持たない装置などをどう統合化していくかなど課題がある。

(聞き手:甲斐 真一郎)



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