▼モノづくりFORECAST

林 章 氏 
フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン 
オートモーティブグループ ジェネラル マネージャー

半導体が生み出す可変技術が自動車を進化させる

[2007年09月号]

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ハヤシ・アキラ
1980年日産自動車入社。主にエンジン開発、車両評価、企画業務などを担当。欧州、米国の技術拠点でも活躍。2006年フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン入社。現在に至る。

 将来のクルマ社会を考えると、環境対応は非常に大きな課題になってくる。日産で米国拠点にいた1990年代に始まった、「マスキー法」を超える厳しい排気ガス規制に対応するため、当時世界一クリーンな自動車といわれた「セントラCA」の開発を担当したこと、以降日本での「ブルーバード シルフィ」の開発、日産の環境戦略「NGP2012」の作成に携わるなどして来たこともあって、ひときわそう思える部分も多い。

 今後の環境対応を律速するのは電動化技術だろう。電動化の要素技術で有力な自動車メーカーが今後のキープレイヤーになる。単にモーター、バッテリーを使うだけだと考えれば、エレクトロニクス業界の技術を応用できるように思えるが、自動車の走行にとって、パワー、サイズ、信頼性を満たすものは意外となく、自動車メーカー自身が開発する必要があった。自動車メーカーでの開発が始まったのもごく最近のことだ。

可変技術が進化を生む

 自動車性能の向上は、可変技術の向上が支えてきた。例えばエンジンの点火は回転数に合わせて行う必要があり、初期の自動車はこれを手動で行っていたが、「ディストリビュータ」というメカ部品により初めて自動化された。自動車の状態の最適化には必ず可変技術が必要であり、その可変技術を担ってきたのはメカ技術だった。

 しかし常に変動する最適値に関わる制御を、メカ的な制限の中で対応するには限界があった。そこでメカ技術をエレクトロニクス技術で置換すると、より最適値に近づけることができ、複数のパラメータも使用できるようになる。カーエレクトロニクスは、さらなる効率化を実現する可変技術には必須なのである。

 1970年代のマスキー法対応で始まった自動車の電子制御は、排気ガス中の酸素濃度をセンサーで計測し、最適なエンジンの空燃比を制御して、インジェクタに出力するというもので、センシング、プロセッシング、アクチュエータというカーエレクトロニクスの3要素が実現されている。現在はこれらを結ぶネットワークも含めた4要素になるだろう。当社のマイコンは、この自動車の電子制御の最初期から採用されている。

半導体を使う理由
 自動車は、製品として家電やPCなど一般的な民生機器と異なる側面を持つ。カローラを例にとれば、昔も今も価格はほとんど変わらないにもかかわらず、その性能は昔のコロナやクラウンを上回るくらいに高くなっている。自動車は本質的に、性能が上がっても値段は上がらない製品なのである。そして値段が上がらない以上、導入する新しい技術には必ず低コスト化できるポテンシャルが求められる。

 カーエレクトロニクスが広がった最大の理由は、小型化やメカからの置き換えによるコストダウンが劇的だからであり、半導体はまさにその代表だ。逆に言えばこのようなポテンシャルを持つ半導体がなければここまで自動車は進化できなかっただろう。しかし意外と自動車メーカーは半導体の重要性を理解していないし、半導体メーカーも自動車にとってどれくらい重要なのかを知らない。このことは両方の業界を経験して初めて分かった。

時間軸のズレ
 製品開発は、基本的に直接の顧客となるTier1サプライヤと行うが、最近は自動車と半導体の時間軸のズレが大きくなっていると感じる。現在、自動車はプラットフォームが出来ている場合20カ月程度で製品を完成できるが、半導体メーカーのデバイス開発は設計から製造まで2年は必要だ。自動車メーカーからTier1サプライヤに仕様を出し、Tier1サプライヤがその仕様に即した半導体開発を半導体メーカーに指示するというやり方では間に合わない。また現在の上意下達的的な開発プロセスでは、半導体メーカーが新しい技術を開発しても自動車メーカーが反映することは難しい。

 基本がメカ技術の自動車はシミュレーション技術の進化でさらに開発サイクルが短くなっており、新技術導入の必要性を考えている自動車メーカーが半導体メーカーと直接話し合って早期から課題を共有する動きは加速するだろう。

 今後20年間の自動車開発は、地球温暖化に対応する効率化と人を殺さない安全性能の二つがメインテーマになる。効率化には軽量かつ最適性能を出せる可変技術が、安全性能にはセンシングを徹底的に行うことが必要であり、小型のセンサー、プロセッサ、アクチュエータを実現できる半導体、エレクトロニクス技術の進歩が成否を決めるだろう。

(聞き手:朴 尚洙)

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