▼モノづくりFORECAST

萩原 太郎 氏 
日産自動車 技術開発本部 FCV開発部 部長

製造コスト低減に最大の努力を払う

[2007年09月号]

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ハギワラ・タロウ
東京大学工学部航空学科修士課程修了後、日産自動車入社。車体設計のエンジニアとしてスタートし、フェアレディ、セドリック、マーチなどの車体の開発に参画。2001年FCV(燃料電池自動車)開発を担当、現在に至る。

 1996年から燃料電池車の基礎研究をスタートした。その後、2001年から開発の規模を拡大し、2001、2、3、5年の各年に試作車を1台ずつ作ってきた。現在はまだ開発途上だが、普通の車に近い状態で使える車が出来てきた。

 燃料電池技術の進歩を表す指標にはいくつかあるが、出力密度、耐久性などは過去数年を振り返ると連続的に改善している。

 従来から燃料電池車の課題を技術課題とコスト低減の課題の大きく2つに分け、平行して取り組んできたが、技術的な課題を先に解決できるだろう。コスト低減にはさらに時間がかかる。

技術的な課題

 燃料電池車の技術は過去5年間でかなり進歩し、もう数年たつとほとんどガソリン車と同じように使える燃料電池車ができるという状況にある。現状でも使用条件と環境条件を考えた場合、90%以上のシーンではガソリン車と同じように動く。ここ数年で現状90%だとするとそれを99%ぐらいにすることを技術開発の目標としている。

 技術的な面での大きな課題は、耐久性や信頼性である。現状では、燃料電池車を作ってから実際に使っている期間が短いため、燃料電池が10年もつのかどうかがデータとして得られていない。車の一生で無交換という目標に対して、現状は簡単にいうとその道半ばぐらいで、5~6年は問題なく動くレベルに達している。燃料電池の劣化のメカニズムを調べ、各劣化の反応を抑制するような使い方や材料の開発を行ってきたことで、03年から05年の車では燃料電池の寿命は倍ぐらいに伸びた。向こう数年も、おそらくこうした改善の連続で実用の目標に近いところまでいくのではないだろうか。

白金使用量を減らす
 燃料電池の低コスト化の技術で、象徴的に引用されるのは触媒用の白金の使用量である。世界に偏在せず、埋蔵量が限られていない、白金に代わるものがあれば理想だが、白金の使用量を減らし、白金をうまく使うことのほうがはるかに実現性はありそうだというのが現状である。

 白金の使用量を減らすための基本的な方法として白金の微粒化がある。白金の使用量は触媒の表面積で決まってくるため、白金を小さな粒にして均質に分布することで表面積を増やし、使用量を減らせることが分かっている。しかし、微粒化した白金が凝集してくっついたり、溶けてなくなってしまうという問題はある。これを解決することが研究課題となっている。

 現在、燃料電池車1台あたりに100gの白金が使われている。この使用量を数十gにできるめどはたってきた。しかし、1桁にもっていかないと現在の一般的な自動車の使用量にはならない。今後世界で車の台数が現在の5倍になることを考え、使用量を1/100あるいはゼロにすることを目標にしている。

 今見えている燃料電池車の製造コストは、現時点の技術がすべてうまくいけば、量産を前提としてハイブリッド車並みにはなるが、ガソリン車と同等になる見通しはほとんどない。そこから先は、この技術を本当に社会で導入するかどうかという意思決定をしないと、市場の経済原理だけでは置き換わらないのではないだろうか。

 昭和50年代の日本では、昭和50年規制という日本の排出ガス規制が作られた。この規制に対応するため車に触媒を装着するようになって車の原価が上がり、装着しない車より安くできないという問題があった。それでも、当時の社会のリーダーたちは、このような高価な車を社会に導入することを決意し、それを実現した。燃料電池もエネルギー消費構造を変えCO2を減らすという目標について、社会の理解が得られないと実現しない技術だと考えている。

 技術的には2010年前後には普通の車のように燃料電池車を運転してもらえるようになるだろう。コスト的には、2015年ぐらいまでにはハイブリッド車並みにしたい。

 現在、燃料電池が抱えている課題というのは各社共通で、課題認識についてはまったく差がない。パワートレインなどの車を動かす技術で差別化する要素は時がたつにつれて限りなくゼロに近づくと思っている。現在の一番の関心ごとは、実現できるかどうかということである。世の中で使ってもらえないと話しにならないので、中長期的な最大の課題はコスト低減である。仮にガソリン車のコストとまったく同等にならなくても、社会の変化やチャンスを生かすためには、できるだけコストを下げておくことが重要なことだと思っている。そこに最大の努力を払いたい。

(聞き手:大村 泰憲)

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