▼モノづくりFORECAST

藤本 幸人 氏 
本田技術研究所 四輪開発センター 企画室 上席研究員

燃料電池が拓く自動車の新たな姿

[2007年09月号]

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フジモト・サチト
1981年本田技研工業入社。2000年FCXパワープラント開発LPL及び完成車開発LPL代行を担当。2003年HondaFCスタック搭載FCX開発LPL、2004年4月上席研究員、2006年12月から現職、現在に至る。

 地球環境に影響を与えない持続可能な車や車社会を作ることが燃料電池車開発の一番の動機である。本田技研工業(以下、ホンダ)の場合は、燃料電池自動車だけではなく、燃料になる水素の製造や供給の研究も合わせて行っている。これから先の100年は、車だけでなく燃料を作る段階も含めてCO2フリーな状態、無くなる心配のないエネルギー燃料をベースにした車社会を確立していかなくてはならない。

燃料電池車の可能性

 我々が開発した燃料電池車「FCXコンセプト」は、前輪駆動だがフロントが小さい。フロントには小さいモーターが入っているだけである。この車の形ではガソリンエンジン車のエンジンをのせようとするとフロントを大きくしなければならない。

 現在リース中のモデルでは、燃料電池は大きく、床下に搭載しているが、新しい燃料電池は運転席と助手席の間のセンタートンネルに納まる大きさになった。それで、このコンセプトカーの形が可能になった。

 燃料電池車では燃料電池からモーターまでを電線でつなげばよい。つまり、ガソリンエンジン車とは異なり、エンジンから回転を取り出すためにメカ機構でつなぐ必要がない。このため、燃料電池などの各部品を分散して配置できるので、パッケージやデザインの自由度を増すことができ、車そのものの形や性能、機能を変えられる素養を持っている。

 これまでとは違ったデザインやパッケージが可能となるので、若い技術者、デザイナー、パッケージの設計者は、アイデアがあるだけいろいろな取り組みができ、車の新たな魅力、新しい車を生み出せるようになる。自動車を開発している技術者としてはこれが大きなモチベーションとなる。FCXコンセプトでは、燃料電池車の持っている魅力を姿、形などで表現しようとした。また、来年のリース販売を目標に現在開発中のセダンの燃料電池車は、完全新規の4人乗りで、デザインも専用である。

 社会や企業としては、持続的な社会、持続的な商品を提供するという目標がある。一方、燃料電池車および燃料電池は、開発競争の初期という段階であり、担当している技術者たちは、世界で初めてとなる技術開発を行っているというモチベーションを持っている。

 これまで燃料電池車を日米で数十台リース販売している。市販という意味では、2002年にリース販売の第一歩を踏み出した。今後、現状からステップアップしていく必要がある。地球環境を考える以上は、燃料電池車利用者の数が増えないと、大勢には影響しないので、買いたいと思ってもらい、買えるようにして普及させなくてはならない。あと10年はかかるだろう。2020年には普及段階を迎えたいというのが、ホンダの公式コメントだが、それを少しでも早めたい。身近で燃料電池車が使われるようにならないと皆待てないだろう。いくら良い技術でも、夢があっても、皆にそっぽを向かれると消えてしまう。このような素養をもった技術があるのにそれを実現できないのはもったいない。10年後は町を走っていることを願っている。私も10年後に乗っていたい。

水素インフラの研究
 航続距離と水素ステーションなどの水素インフラの数は、密接に関係している。インフラが少ないと航続距離を長くしなくてはならない。航続距離を延ばすのは車側の宿題だが、これと平行してインフラをどうしていくかという課題もある。

 水素インフラについては、水素をどう作るのが一番安いのか、広められるかについて考えていかなくてはならない。携帯のメリットや単純に安いだけでは次の世代をあまり見ていないことになる。環境負荷が低いことも考えなければならない。さらには、水素インフラの数が足りないのを補うような、利便性が上げられるような仕組みとして、家で天然ガスや都市ガスから水素を取り出し、車に供給するなど家庭でできるようなことも考える必要がある。

 我々は、地域ごとの特質を生かした水素インフラを研究している。晴天率が高いカリフォルニア州では、当社の太陽電池を使用して太陽光発電を行い、その電気で水を電気分解して水素を取り出す水素ステーションを実験稼働している。また、水資源が豊富な屋久島では2004年から2006年の2年間、水力発電を利用して水素を作り燃料電池車に供給するという、CO2フリーの完全循環型の社会を実証するためのプロジェクトに参加した。地域ごとで水素の製造がすすめば持続可能な車や車社会の実現がもう少し見えてくるだろう。

(聞き手:大村 泰憲)

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