▼OUTLOOK(1) バーチャル・リアル・ファクトリ統合

ソフトウエア化する
モノづくり

[2007年09月号]

シーメンスのUGS買収を契機に、生産工程の自動化とCAD/CAEなどを含むPLM(製品ライフサイクル管理)の融合を加速化する動きが出てきた。モノづくりに今後どうITを活用するか。その手法をめぐり、トップダウンでオートメーション化を進める欧米型と、ボトムアップでカイゼンを積み上げる日本型のモノづくりの姿勢の違いが浮き出してくる。


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 モノづくりのモノと、その作り方の両面でソフトウエア化が進行している。アイシン精機の電子系技術部でソフトウエアグループマネージャを兼務する鈴村延保副部長は「自動車の新機能開発の80%はソフトウエアが絡んでいる」と語る。自動車産業では、このソフトウエア開発要員の確保が開発スピードに追いつかない状況がいまや恒常化している。

 過去35年間、日産はじめ自動車の設計開発分野で経験を持つデジタルプロセスの間瀬俊明社長は「モノづくりのモノとは何かを考えると、機械工学としてのメカにエレキが加わってメカトロニクス、さらに最近は組込みソフトの領域が拡大する流れにある。自動車も今や原価の相当部分がエレクトロニクス部品と組み込みソフトで占められる。すなわちモノ自体がソフト化してきている」と語る。

 生産されるモノそのものの機能定義も次第にソフトウエアが主導権を握りつつある。プログラマブルなものの領域が拡大している背景にあるのは、半導体デバイスの開発と浸透だ。いまや自動車から携帯電話まで多様な電子電機機器に組み込みソフトが使われている。

 一方、モノづくりの開発プロセス全体を支える仕組みもソフト化している。

 工場オートメーションではショップフロアの制御のコアとなるPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)の高性能化がその応用面で大きな変化をもたらしてきた。従来高価な専用コントローラで行っていたモーション制御や計装制御をPLCのソフトウエアに置き換える動きが活発で、その結果、「機械装置のコストの中に占めるソフトウエアの比率は年々上昇しており、最近の調査では装置コストの40%に達している。機械装置のコスト削減や品質向上はソフトウエアを抜きに語れない状況」とPLCopen Japanの川島重雄代表幹事(富士電機機器制御生産本部技術企画部)も述べている。

 ファクトリ・オートメーション大手のシーメンスA&Dではすでに、約5,000人のエンジニアのうち半数以上の約3,000人がソフトウエアのエンジニアであり、これに加えて契約エンジニアが約3,000人ソフトウエア開発に従事している。つまりUGSの約2,500人を加える以前から、世界でも屈指のソフトウエア会社の顔を持っていた。

工業用イーサネットの普及
 業界筋によれば、ファクトリに設備されるPLCなどシステムコンポーネントの市場規模は、欧州が約2000億ドル近い規模で、北米の約1000億ドルと日本の約700億ドルを合わせたくらいの市場規模がある。東欧が生産拠点として加わったこともあるが、欧州はオートメーション産業が歴史的に強かった。ところが自動化設備の中で、工作機械は戦後のある時期に日本が技術力で圧倒。このため、欧州では工作加工機械は輸入に頼る構造になったものの、シーメンスやABBが力を入れて育てたのが企業の中の生産システム間、ショップフロア間のネットワーク分野だ。工業ネットワークの仕様が入り乱れる中、今や欧州ではデバイスネット/センサネットレベルでシーメンスのPROFIBUS方式が圧倒的に強い。

 これまで工場内のそれぞれのライン、ショップ、セルで最適なネットワークとしていろいろな規格がつくられてきた。


三菱電機名古屋製作所内FAコミュニケーションセンターに展示されたファクトリ内ネットワーク構成:コントローラネットワークのMELSECNET/Hからライン内フィールドネットワークSSCNET、さらにセンサデバイスレベルネットワークCC-Linkのネットワーク構成が見える

 

三菱電機のMESインターフェースを内蔵したシーケンサー(PLC)

 その入り乱れたネットワーク規格の中で、このところ工業用イーサネットがデファクトとして台頭してきている。従来からファクトリ内の生産活動を制御し伝達する情報機器MES(生産実行システム)から上位はイーサネットだった。

 これに対しこれまで企業固有方式が支配的だったMESから下位層のPLCなどファクトリ・フロア内の情報を扱うコントローラレベルでも、今後イーサネット化してくると見られるようになった。富士電機機器制御生産本部技術企画部の武井孝憲部長は「イーサネットがここに浸透してくると、既存のネットワークを統合吸収できる可能性がある」と語る。

 米ARC Advisory Groupの予測では、工業用のイーサネット機器の出荷台数は、04年の84万セットから、複数年平均成長率51.4%の伸びで09年には600~700万セットに増加するという。

 とはいえ、「そのイーサネット統合を欧州PROFIBUSグループがリードしたり、米国DeviceNetグループが進めたりするため、結果的にマルチスタンダードになる可能性が濃い」(武井部長)というのが実情だ。

 このコントローラレベルのイーサネットで自動車工業会をスポンサーとして日本発の規格FL-netも立ち上がった。これが日本での標準だが、日本で標準化できたのはコントローラレベルのみ。その下層としてのデバイス/センサレベルでは、三菱電機が96年から提唱しているCC-Linkが6月末現在で893社のパートナー会員を集めて有力だが、各社ばらばらであることが課題だ。

 他方、欧州ではシーメンスが主導してデバイス/センサレベルではPRO FIBUS、コントローラレベルではPRO FINETが、同様に米国では、デバイス/ センサレベルでDeviceNetを推進するRockwellが主導したイーサネット規格Ethernet/IPがコントローラレベルの標準となっている。これら複数の仕様になったイーサネット上のネットワークは物理的には統合されるが、そのなかでソフトウエア的な情報としてのコネクションをとろうという標準策定のための活動がすでに始まっている。

 FAとPLMの連携がテーマ化しだした背景のひとつに、オートメーションの通信インフラとしてのこの工業イーサネット標準の成功がある。生産設備や装置、部品を買う企業から、リアルタイムに近いスピードで品質管理やラインの稼働状況の管理、生産台数の管理などを実施したいという要望が強まっている。トレーサビリティなども含めて品質や生産状況のデータをMESやその上位のERP(企業基幹情報システム)に吸い上げてファクトリの「見える化」を希望する管理責任者や経営層の増加を反映している。

 シーメンスが設計開発データと同じプラットフォーム上で、ファクトリ内のアクチュエータを制御したいと考えた背景には、欧州での圧倒的なPROFINET、PROFIBUSの普及成功がある。

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