ダイムラーとベンツによって自動車が発明された1885年の時点で、自動車とエレクトロニクスの接点は、電池と感応コイルを使った点火装置だけだった。その後ライトや真空管カーラジオなど限定的に周辺機器で導入されたものの、自動車とエレクトロニクスの関係は非常に狭い領域に限られていた。
エレクトロニクス産業の拡大は、ゲルマニウムやシリコンを原材料とした半導体素子の開発がその基礎となった。1939年にダイオード、1948年にトランジスタ、1958年にICが登場しているが、これら半導体素子の自動車への応用は、1960年代に入ってからになる。最初の例はオルタネータ(発電機)の整流用ダイオードといわれ、その後イグナイタ(点火装置)の電気接点にパワートランジスタが採用された。
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半導体技術
[2007年09月号]
日本を代表する製造業、自動車とエレクトロニクス。
この二大産業の技術力を融合した「カーエレクトロニクス」の進化が加速している。
自動車全体に対するカーエレクトロニクスのコスト占有率(出所:ルネサス テクノロジ)
環境規制が導入を促進
エレクトロニクス導入を大幅に促進したのが、1970年代から始まった米国の環境規制である。その代表が「マスキー法」として知られる、5年間で排出ガスの量を10分の1にすることを自動車メーカーに義務付ける法令だ。
実現不可能といわれたマスキー法に対応するために採用されたのが、マイクロコンピュータ(マイコン)を使った電子制御ユニット(ECU)である。排気ガスを清浄にしながら、エンジン出力や燃費を悪化させないためには、点火時期、燃料噴射、エンジン回転速度などのマイコンによるデジタル制御が必要だったのである。1978年発表の東芝の12ビットマイコン「T3190」は、当事マスキー法への対応を進めていた米Ford Motor社の電子制御燃料噴射装置(EFI)向けに開発された製品である。
「カーエレクトロニクス」という技術分野が、自動車産業、エレクトロニクス産業双方から認められるようになったのは、エンジン制御にマイコンを使い始めた1970年代後半からと言える。
実現不可能といわれたマスキー法に対応するために採用されたのが、マイクロコンピュータ(マイコン)を使った電子制御ユニット(ECU)である。排気ガスを清浄にしながら、エンジン出力や燃費を悪化させないためには、点火時期、燃料噴射、エンジン回転速度などのマイコンによるデジタル制御が必要だったのである。1978年発表の東芝の12ビットマイコン「T3190」は、当事マスキー法への対応を進めていた米Ford Motor社の電子制御燃料噴射装置(EFI)向けに開発された製品である。
「カーエレクトロニクス」という技術分野が、自動車産業、エレクトロニクス産業双方から認められるようになったのは、エンジン制御にマイコンを使い始めた1970年代後半からと言える。
80年代から急拡大
1978年発表の東芝の12ビットマイコンT3190
1980年代のECUに使用されていたのは8ビットマイコンである。当時パソコン用マイコンの開発に注力していた半導体メーカーは、自動車メーカー、Tier1サプライヤからも受注が拡大し始めたことから、カスタムマイコンを中心に自動車向けの技術開発を行うようになった。現在でも高シェアを持つ米Motorola社(現Freescale Semiconductor社)、独Siemens社(現Infineon Technologies社)、日立製作所、三菱電機(現ルネサス テクノロジ)、東芝などが自動車用マイコンの基礎技術を築いた。
1990年代は、パワートレイン、車両系、ボディ系それぞれの分野で電子制御する対象が増加し、制御も複雑になった。エンジンでは連続可変バルブタイミングや直噴、予防安全ではトラクション・コントロール・システム(TCS)、横滑り防止装置(ESC)などの新技術が次々に登場した。またパイオニアが全地球測位システム(GPS)を使ったカーナビの市販を開始したのが1990年であり、カーエレクトロニクス製品に情報機器も含まれるようになった。
カーエレクトロニクスの進展に伴いマイコンの必要性能も高くなった。エンジン関連などでの複雑な制御に対応するため、より処理能力の高い16ビットマイコンが採用され始めた。フラッシュメモリ内蔵マイコンが登場したのも1990年代で、マスクROM内蔵と違ってプログラム書き換えが可能なことで短期開発に貢献するという評価を受け、1990年代末から市場を形成し始めた。
車載ネットワークの本格的利用が始まったのもこの時期である。1980年代はECUと対象機器を直接配線していたが、ワイヤハーネスの量が増加したためネットワーク技術を使って効率的な配線を行う必要があった。日本ではトヨタ自動車の「BEAN」をはじめ自動車メーカーが独自規格を開発したものの、最終的に事実上の標準になったのは1986年に独Robert Bosch社が開発したCAN(Controller Area Network)である。しかしインターネットが標準プロトコルの存在を元に普及を遂げたことと同様に、CANによる車載ネットワークの標準化がカーエレクトロニクスの進展を大幅に促進した。富士通は1990年代に、CAN対応とフラッシュメモリ内蔵技術で自動車用マイコン市場に一定の地位を築いた。
半導体市場を牽引
21世紀に入りカーエレクトロニクスの進化はさらに加速している。カーナビ用マイコンでは、地図の3D表示やDVD搭載のため1990年代後半から32ビット品を採用するようになり、2000年以降にエンジンをはじめパワートレイン、車両系にも採用されるようになった。NEC(現NECエレクトロニクス)が自動車用マイコン事業を拡大できたのは、他社に先駆けて1995年から32ビット開発に取り組んだことによる。
2002年のITバブル崩壊で低迷期に入った電機業界とは対照的に、国内メーカーを中心に自動車業界は成長を続けている。国内半導体メーカーは、シリコンサイクルなしに年率5%以上で着実に成長している自動車用半導体市場に注力する姿勢を鮮明にしており、海外半導体メーカーも、2000年以降好調な国内自動車メーカーへの展開強化に取り組んでいる。半導体の不良が即人命につながることから高水準の品質保証体制が求められ、携帯電話やPCに比べて長い3~5年単位という製品開発サイクルに対応しなければならない自動車用半導体市場は、「一見さんお断りの世界」(国内大手半導体メーカー)。コスト削減要求も厳しいが、早期の投資回収が必要なベンチャーやファブレス企業からの参入障壁は高く、工場を抱える半導体メーカーにとって長期に渡り安定した関係を結べる魅力的な顧客と言える。
2002年のITバブル崩壊で低迷期に入った電機業界とは対照的に、国内メーカーを中心に自動車業界は成長を続けている。国内半導体メーカーは、シリコンサイクルなしに年率5%以上で着実に成長している自動車用半導体市場に注力する姿勢を鮮明にしており、海外半導体メーカーも、2000年以降好調な国内自動車メーカーへの展開強化に取り組んでいる。半導体の不良が即人命につながることから高水準の品質保証体制が求められ、携帯電話やPCに比べて長い3~5年単位という製品開発サイクルに対応しなければならない自動車用半導体市場は、「一見さんお断りの世界」(国内大手半導体メーカー)。コスト削減要求も厳しいが、早期の投資回収が必要なベンチャーやファブレス企業からの参入障壁は高く、工場を抱える半導体メーカーにとって長期に渡り安定した関係を結べる魅力的な顧客と言える。
カーナビ、10年後は自動車の中心に
本田技研工業インターナビ推進室、今井武室長
マイクロソフト ディベロップメントITS戦略統括部、平野元幹統括部長
ホンダが2002年に、純正カーナビ用サービスとして開始したのが「インターナビ・プレミアムクラブ」である。通常のFM波や光ビーコンによるVICSに加えて「オンデマンドVICS」を取得できるのが最大の特徴で、03年のHDDナビ投入に合わせて会員車の走行データを相互利用してさらに詳細なVICS情報が得られる「プレミアムメンバーズVICS」と「渋滞予測サービス」を開始した。ITS(高度道路交通システム)の技術目標だった、リアルタイムでのプローブ情報(各自動車の走行状況)を活用した「フローティングカー」を実現したのである。
本田技研工業インターナビ推進室の今井武室長は「事前のアンケートで、ナビに一番求められているのが『交通情報』だということが分かった」と話す。同時期に始まったトヨタ自動車「G-BOOK」や日産自動車「カーウイングス」と違い、会費無料・交通情報提供を軸とし、音楽や映像などのコンテンツサービスは行わなかった。しかし会員数は順調に伸び、2007年3月には50万人を突破している。「自動車の付加価値として、エンジンや環境対応だけでなく『情報性能』も重要だということが証明できた」(今井室長)という。
プローブ情報活用については、2006年から2007年にかけて日産、トヨタ、市販カーナビトップのパイオニアがサービスを開始したことで本格的な競争段階に入った。今井室長は「まだ通信インフラなどに課題はあるが、10年後のカーナビではプローブ情報は標準サービスになっているだろう」と見ている。
Windowsで車両制御
かつてカーナビのOSは、携帯電話と同じくμiTRONだったが、2001年に登場したHDDカーナビに始まるAV機能の拡大で汎用リアルタイムOSが採用されるようになった。現在HDDカーナビでシェア50%を占めるのが「Windows Automotive」である。
マイクロソフト ディベロップメントITS戦略統括部の平野元幹統括部長は「10年後のカーナビは、これまでの10年に比べてもさらに劇的な進化を遂げる。2015年頃には、自動操縦など夢の技術が実現し、その主軸に来るのはカーナビなど情報系システムだろう」と予測する。
自動車の通信システムは、エンジンやブレーキなどの走行系、スピードメーターなど車両系、カーナビなど情報系に分かれている。近い将来に、液晶表示のインナーパネルにナビとスピードメーターが共存するような形で車両系と情報系の融合が始まり、先行車追従システムとナビを連携し一体処理する可能性も出てくる。「その時までにマルチコア対応の新バージョンを投入するなど、車両系と同レベルの制御信頼性を確保できるようにしたい」(平野統括部長)という。
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