自動車用計測特集

手戻りゼロの自動車開発

〜検証プロセス・計測技術の革新〜

[2007年11月号]

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 近年の自動車の機能拡張を支える電子化の進展は、電子システムの複雑化も意味する。自動車メーカーがサプライヤに発注した部品を組み上げて試作しても、電子回路やソフトウエアに起因する想定外の不具合が起きて、設計手直しとサプライヤへの再発注が必要になる事例が急増している。このような「開発手戻り」を無くすために、自動車メーカーや計測機器メーカーの取り組みが進んでいる。

EIPFとD-EIPF

日産自動車の新開発プロセスV-3P

 自動車ECU(電子制御ユニット)の開発ライフサイクルは、V字型のダイヤグラムで表されることが多い。V字の上側のシステム全体やアーキテクチャの設計と検証は自動車メーカーが、V字の下側の、自動車メーカーからの要求仕様に合わせたモジュールの設計、実装、検証をサプライヤが担当する。しかし自動車の電子化が進んで、複数のECUネットワークを使った機能があたり前になって来ると、複雑なシステムに対する曖昧な設計要求やモジュール設計・実装時の仕様の織り込み不足により不具合が起こる。特に、複数のECUネットワークを使った機能の場合は最終試験の段階で不具合が見つかることが多く、再度自動車メーカーでの設計要求検討から始めると数カ月単位の開発遅延が起こってしまう。

 日産自動車では、2005年発売の「ノート」から、試作回数を極力減らして開発期間を従来の約半分となる10.5カ月にまで短縮する開発プロセス「V-3P」を適用している。

 V-3Pの最大の特徴は、車両試作の前に各ECUを接続して評価する車両レベル電子電装ベンチ装置「EIPF(Electric Integrated PlatForm)」、設計要求をサプライヤに出す前に行う車両レベル電子電装シミュレータ「D-EIPF(Designed-EIPF)」を導入した点である。

 日産自動車電子・電動要素開発本部電子システム開発部CAE開発グループの渡邉晃主担は「1990年代はECU間でつながっているのは電源くらいだったが、現在は車体安定制御などの機能で各ECUを横断する分散ECUシステムの開発が必須になり、開発手戻りも増加するようになった」と話す。

 日産では、V-3Pの開発にさきがけてECUソフトウエアの開発手戻りの原因分析を行っており、サプライヤの設計・実装によるものが68%、自動車メーカーの設計によるものが31%という結果が出た。

 サプライヤ由来の不具合に対して効果を発揮するのがEIPFである。自動車フレームに各ECUを搭載し、独自開発の信号生成装置や電源装置などを接続して試験を行う装置で、2001年に日産テクニカル・センター(NTC)から導入を開始して、現在はグローバルの製造・開発拠点に展開している。機能拡張も進んでおり「自動評価機能については初期の頃よりも格段に進化した」(渡邉主担)という。EIPFによる試験は、1つのECUで1〜2日で終わる機能チェックから、いわゆる「いじわる試験」など複雑なものも含めて5,000以上の試験パターンを適用し、約1.5カ月をかけて行う。

 一方、D-EIPFは、自動車メーカーの設計に起因する不具合を検証するシミュレーション環境である。評価対象となるモデルは、独Vector社の「CANoe」を使った多重通信モデル、図研のハーネスCAD「Cabling Designer」を使ったハーネス回路モデル、各種制御モデルなど既存のソフトウエアを利用しており、これらのモデルや評価に必要となる車両モデルをEthernetで接続している。日産が独自開発したのは、各モデルをつなげるインターフェース部分。Microsoft社の分散オブジェクト技術「DCOM」を活用して、クロックサーバーからのクロックで同期をとる仕組みを持っている。

 今後の課題としては「D-EIPFでは、各モデルを接続するインターフェースが、ベースとなる各ソフトウエアのバージョンアップと共に使えなくなる可能性がある。APIの標準化に関するソフトウエアベンダへの働きかけが必要だろう」(渡邉主担)としている。

需要が拡大するHILS

 HILS(Hardware-in-the-Loop Simu-lation)は、従来は実車の走行テストで行っていたECU試験を、自動車の仮想モデルにECUを接続することで効率的に行えるテストシステムである。自動車に搭載するECUの数が急増する中で、開発効率向上を目的に需要が拡大しており、例えば日産のEIPFにも組み込まれている。

 需要拡大の背景には、CPUの演算処理能力の飛躍的向上がある。パワートレイン関連向けHILSで高い実績を持つ独ETAS社によると、2004年にはECUの演算サイクルは1ミリ秒程度だったが、2007年にインテルのCore2Duoに対応することで0.17ミリ秒にまで短縮しており、より複雑なECU試験に対応することが可能になってきている。ETAS社では、ディーゼルエンジンのように、数10μ秒単位で起こる気筒内圧の圧力変化に対応する高速モデルと通常のエンジン制御など1ミリ秒前後の低速モデルを同時に試験するプラットフォームの開発を進めている。

 日本ナショナルインスツルメンツ(NI)は、グラフィカル開発環境「LabVIEW」と計測汎用インターフェース「PXI」をベースに、低価格ソリューションを提案している。「LabVIEWは、自動車関連のPCベース計測の半分以上に採用されるなど、ほぼ業界標準と言えるようになった。今後は、仮想モデルと組み合わせたHILSシステムとしての展開を強化したい」(日本NI)という。国内では、HILSの仮想モデル構築を行うネオリウム・テクノロジーと販売提携しており、車両モデル「veDYNA Light」とLabVIEWのHILS基本セットの価格は約500万円となっている。




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