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シックス・シグマの教訓
−−3M社の研究開発部門
[2008年02月号]
技術革新プロセスに厳格な方法論を適用すべきか、適用すべきでないか・・・
それが問題だ。
3M社の新しいカスタマー革新センター(Customer Innovation Center)は、同社の技術力のショーケースとして、2006年9月にオープンした。前最高経営責任者(CEO)James McNerney Jr.氏がこのセンターを創立したとされている。しかし、3M社の従業員のひとりによると、McNerney氏は当初計画よりもかなり投資を縮小したという。この件で、3M社の広報担当者の確認はとれなかった
「我々はすこし、道具に夢中になりすぎていた」と、3M社の研究部門のトップ、3M Corporate Research Lab.のスタッフ・バイス・プレジデントLarry Wendling氏は言う。
3M社はMcNerney氏の時代以降、財政的には強力になった。その一方で、3M社の多くの古くからの研究者、エンジニア、科学者たちはシックス・シグマの体制のもとで不満をつのらせていた。批評家によると、過剰なまでの数値評価、段階的行動、効果測定、およびシックス・シグマにおける変動要因削減への注力が、新しいものの発見の過程を台無しにしてしまったという。シックス・シグマでは、ブレーンストーミングによる自由な行動の利点や、発見の偶然性の側面が抑圧される。シックス・シグマの提唱者の主張では、このような方法論的ルールによってこそ、研究者は正しい軌道に乗り、責任ある生産活動ができるようになるという。シックス・シグマの適用と、束縛のない研究活動との間のバランスを取ることが、一番重要であると見られることも多い。
3M社のほかにも、研究者をどれだけ束縛したらいいのか悩んでいる会社は多い。しかし3M社が他の会社と違う点は、会社の規模(240億ドル)と、さまざまな分野の新技術を商品化し続けることに大きく頼っている点にある。3M社でMcNerney氏に批判的な人たちは、2005年にMcNerney氏がBoeing社の最高経営責任者(CEO)の職を受け入れたことをわくわくしながら見ていた。3M社の長い技術革新の文化に対するMcNerney氏の影響に関しては、米BusinessWeek誌2007年6月11日号に詳しい記事が掲載されている(http://rbi.ims.ca/5411-577)。
McNerney氏の後を継いだ3M社のCEOであるGeorge Buckley氏は、研究開発では、シックス・シグマ活動への重視を下方修正した。それと同時に、2007年度の研究開発費は対前年比で11%増加した。「3M社はテクノロジー・カンパニーである。したがって、継続した投資によって、新規のテクノロジーと新製品プラットフォームを作り出すことが本質的に重要である」と、Buckley氏は2007年10月に再確認した。結局のところ、3M社はPost-it Notes、Thinsulate、Scotchgard、Scotch Tapeなどを生み出した会社なのである。さらに、一般消費者が知らないところで、多くの複雑で洗練させた技術革新が3M社から生み出されている。その領域は広く、デジタル歯科学から、偽造パスポート検知を容易にする“Confirm Laminate”(http://rbi.ims.ca/5411-578)までに及んでいる。
「Georgeは研究所や研究開発に対して、一度しぼったスロットルをまた開けている。彼は同時に、製造やサプライチェーンにおけるスリム化のためのシックス・シグマ活動の強力な推進者でもある」とWendling氏は言う。「シックス・シグマは必要とされる場所がある。基礎研究や製品開発とは反対の、トランザクション活動と呼ぶようなところでより必要とされている。重要なのは研究開発でも意味を持つような選択的な使用法であり、シックス・シグマ自体が目的となってしまってはいけない。例えば(シックス・シグマの)実験計画法は、基礎研究で日常的に用いられている」(Wendling氏)。Wendling氏は2007年9月に3M社入社30周年を祝った。Wendling氏の上司はFrederick J. Palensky博士である。Palensky博士は研究開発担当のエクゼクティブ・バイス・プレジデントであり、3M社の最高技術責任者(CTO)でもある。
専門家の一致した意見によると、シックス・シグマ活動をどこであろうと展開するようなやり方は、あまり良い考えではないという。すくなくとも3M社のような会社には向かない。
「このようなTQM(Total Quality Management)活動および変動要因を削減するための一群の方法論は、我々が探検的技術革新と呼ぶものとは逆相関の関係にある。方法論が助けになるのは、すこしずつ進むような技術革新である。この手法を研究開発に適用すれば、それだけ探検的技術革新の効率は低下する」と、Harvard Business School教授、Michael Tushman氏は言う。「シックス・シグマの適用すべき場所は確かにある。しかしそれは技術革新全体のなかで、目的が明確に定まった部分のみである」
3M社の研究者はシックス・シグマのツールセットのなかのDMAICという部分はいまでも使っている。DMAICとはDesign(設計)、Measure(測定)、Analyze(分析)、Improve(改善)、Control(管理)の頭文字である。2000年以降、3M社では5万8,000件のプロジェクトがなんらかのDMAICの手法を用いた。さらに5万5,000人以上の3M社の従業員は最低限の資格である緑帯(グリーンベルト=白帯、黒帯など武術の段位制から取り入れた用語)(http://rbi.ims.ca/5411-579)の訓練を受けていると、3M社の広報担当者は言う。DMAICと同じような、やはり頭文字からなるさまざまな手法は、他の会社でも採用されている。
「DMAICは役に立つ。しかし適用できる領域は限界がある。単純化して言えば、シックス・シグマのようなプロセス改善手法はさまざまあるが、すべて因果関係と再現性を前提としている。したがって、これらの手法が威力を発揮するのは、製造工程や注文処理のようなかなり整理された状況だけである。このような状況から一歩外に出ると、この手法はもともと成功しない」とDavid Snowden氏は言う。Snowden氏は英国のコンサルティング会社Cognitive Edge社の創立者で最高技術責任者である。
大学関係者とコンサルタントたちは、研究開発におけるシックス・シグマの利点と欠点に関し、果てしない論議を続けている。しかし顧客にとっては、この手法の利点は明らかである。米エネルギー省のプログラムマネジャーPhil Overholt氏は、3M社の新規アルミニウム複合材料による送電技術に関して、3M社と共同で仕事を進めたことがある。電力線が垂れ下がるような発熱を減少させる技術である。
「3M社の人たちは、理想に向かう傾向が高く、手法としては極端なまで徹底的で、宿題を完璧にこなし、スケジュールは守る。これはなかなか出来ないことだ」とOverholt氏は言う。
米国品質協会(American Society for Quality)の理事長Ron Atkinson氏は、シックス・シグマ設計(Design for Six Sigma)の強力な推進者である。Atkinson氏は機械工学と生産技術のエンジニアで、自動車メーカーの役員でもある。
「私の観察では、会社が一度シックス・シグマを理解すれば、シックス・シグマはエンジニアリングの方法論と非常によく調和する。シックス・シグマによれば、プロジェクトが会社の戦略計画に直接関係していることの確証が得られる」とAtkinson氏は言う。分析病(分析ばかりで前に進めない症状)が懸念にならないかという事に関しては、「(プロジェクトの)推進者は対応策をとることができる。設計段階に永遠にとどまっている訳にはゆかないことを徹底させることだ。そして、当然のことながら、ひとつの段階を終了するまでは、次の段階を始めることはできないことも明確にしておく」と言う。Atkinson氏は、純粋な研究はシックス・シグマに結びつくことは無く、大学での活動や連邦政府の補助金をもらったプロジェクトがふさわしいと考えている。
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