研究開発=両極から見えるもの

第13回

実験・理論・シミュレーション

[2008年03月号]

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実験・理論・シミュレーション

 仕事の進め方には各自の個性があって、観察していると色々面白いこともある。随分前から段取りして、じっくり進めていくやり方の人もあれば、締め切りの直前になってダッシュする集中型の人もある。自分については、大学の教員として講義の準備を行うのだが、用意したつもりが毎年前日に慌てふためいているのはよくないことだと反省している。海外の高名な先生は、一時間の講義に二十数時間かけるとのネット情報がある。

 エンジニアや研究者の仕事に取り組むやり方にも、またさまざまなものがある。これは各自の好みで決まってくるもので、成果の出方もやり方に応じたものになっている。

 日本が発展途上にあったころ、物理学者を志す人達は、実験をやるか理論をやるか選択に困ったということが書物に記されている。同じことを扱うのであるが、日々の生活形態は大変異なったものになる。

 昔は便利なコンピュータもなく、物理の理論家は即ち最高級の応用数学者でもあった。日々の仕事は方程式についてあれこれ考えを巡らせるというものであった。このような仕事の形態は今日でも大変重要なものだ。

実験家
 世界各地の国民性から、その国なりの研究スタイルが見て取れる。西洋が科学技術で先行してきたのは、各種の現象に深い関心を示す姿勢とともに、物事の訳を一元的に解釈しようとする傾向が強かったためではないかと想像している。各種の事柄を無矛盾に理解したいのだ。一方わが東洋は、複雑なものはそのまま妥協的に受容してしまう傾向がある。これは科学には向かない面もあるが、エンジニアリングでは優れた特性になり得る。

 近代物理学の黎明期には欧州勢、特に英国勢が圧倒していたが、彼等のやり方はとにかく実験を行い考えるというスタイルだ。机上の計算のみということではない。物理学は現象を説明できる式を考えるという手法に即しているからだ。長らく技術的業務に従事していると、現象がよく法則に従っていることを身に染みて体験する。聡明な人達は現象を数式に当て嵌めて、法則や方程式を導出してきた。彼らにはほとんどの人には何も見えないものが見えているという訳だ(だが、物理学者はもののあわれを理解しなかったかもしれない)。

 実験家の役割は絶大で、まずは事実関係が明らかになっていることは大切である。

理論とシミュレーション

 理論の強みは物事の関係を優美な数式で説明できることである。実験家が解釈できそうにない理由について明快に説明できる場合が多い。確定した理論は、その普遍性を特長としており、扱う者によって答えが変わるという恣意性は無い。理論解の弱点を敢えて挙げれば、適用対象が限られるといことであろうか。

 ここで登場してきたのが、数値シミュレーションである。あらゆる分野に普及しており、科学技術分野では必須の手法である。特定の分野では完成の域にあるが、計算格子、境界条件、計算法、物理モデルといった点に実行者のポテンシャルが反映されやすく、実験や解析との相互検証が大切である。という訳で、一見全盛のシミュレーションであるが、現場では併せて実験的な取り組みもやはり必須になる。

 このようにして、同じ事柄を扱うのにも、実験・理論・シミュレーションを組み合わせて利用するのが筋で、各自が自分の特性にあった領域で貢献している訳である。

森下悦生
モリシタエツオ 1949年三重県生まれ。東京大学工学部航空学科卒、同大学院修士課程修了、ケンブリッジ大学工学部修士課程修了。1974年三菱電機に入社、スクロール圧縮機の研究開発などに携わる。1993年より現職、東京大学大学院航空宇宙工学専攻、教授として教鞭を取る。

●著者連絡先
tmorisi@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp

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