研究開発=両極から見えるもの

第14回

欧米と日本

[2008年04月号]

By 森下悦生
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欧米(左)と日本(右)

 明治維新以来、あるいはそれ以前から、日本は西欧の文物に関心を示し、その成果を導入したり、やり方を学んできたりしてきた。もっと大昔には中国や朝鮮半島から多くのものが伝来し、固有の文化を形成してきた。

 高校くらいまで、学校の授業でよく西洋の合理主義ということを聞いた。生徒の立場での理解は、物事を理性的に扱うとか、矛盾したことを避けるとかというようなものであった。企業派遣の留学生として英国で勉強する機会を得た折、この合理主義の自己認識は大いに変更を受けることになった。

 一つの面白い個人的な体験は次のようなものである。1980年代前半、当時まだ喫煙者であったのだが、今から考えると英国ではすでに煙草はマナー違反の時代に入っていたものと思われる。指導教官の先生から、君はなぜ煙草を吸うのか、という質問をされた。もちろん習慣であり、うまく説明できるはずもなかったのだが、引き続いての質問は、喫煙により癌などの疾病の発生率が高くなることは承知しているのか、というものであった。それはもちろん分かっておりますと答えたのだが、ついで君は自分の寿命を縮めたいのか、という質問が出て、そうではありません、と答えた。先生からの指摘は、君の論旨は一貫していない(illogical)というものであった。

 結論として、言動に矛盾がないためには、禁煙が自然であるとのことであった。その後、加齢とともに煙草が吸えなくなってしまい、今日に至っているが、先生の言葉も影響したのは間違い無い。

 この煙草事件以来、合理主義というのは、能力の高さから来るというより、そもそもすべてについて、曖昧さが西洋人の脳にはどうしても受容されないことに起因しているのではないかと感じ始めた。

日本に学ぶ
 日本のみならず、北東アジア地区に居住する人間として、日々多少曖昧なものは大いに許容しており、この性質は突き詰めて物事を検証する科学の分野ではマイナスに作用しかねない。一方、技術のように多くの要素技術が渾然一体となったものでは、妥協しつつ物事を進める日本式、あるいは東洋式は大いに力を発揮している。カメラ付き携帯電話、ハイブリッドカーなどが日本で流行るのは故の無いことではない。

 東洋人の良い特性は、複数の事象を素早くつかんで、大体こんなところだという結論を早くだせるところだ。定量性に欠けるが、不毛な論戦を経ず、結構良い結論に達するのは日ごろよく経験するところだ。西洋のやり方では、白黒がはっきりするまでつきつめることになり、我々から見れば頑迷にさえ感じる場合がある。

融合的発展
 西洋と東洋の長所を融合すれば、世界はよりよい方向に展開できる可能性がある。根本理解型の西洋とあいまい総合型の東洋はおそらく相補的に作用して、うまく組み合わせて業務に生かせるだろう。実際くだんの先生もそのようなことを言われていた。当時英国に日本の自動車会社が進出して、現地に仕事をもたらしていたのだ。一方、科学技術計算ソフトや計測機器は今でも欧米圏が圧倒している。

 日本は東洋にありながら、これまで西洋の文物を吸収し、近年ではその思考法についても多少の理解が進んだ地域であり、今後は北欧などと並んで世界のスーパー先進地域として発展していく姿を希望し、予想している。

森下悦生
モリシタエツオ 1949年三重県生まれ。東京大学工学部航空学科卒、同大学院修士課程修了、ケンブリッジ大学工学部修士課程修了。1974年三菱電機に入社、スクロール圧縮機の研究開発などに携わる。1993年より現職、東京大学大学院航空宇宙工学専攻、教授として教鞭を取る。

●著者連絡先
tmorisi@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp



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