モノづくりと人材・技術経営

智力繁栄 —「日本ブランド」を
支える技術力を社内外で蓄える

[2008年04月号]

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松下電工 常務執行役員
生産技術研究所 小畑外嗣所長

オバタ・トシ 1971年金沢大学工学卒業、同年松下電工に入社。76年から金型 CAD/CAMシステム、工場の CIMシステム、コンカレント・エンジニアリングシステム、金属光造形システム開発に従事。2001年製造システム開発センター所長。03年生産技術研究所所長。
04年執行役員。06年から現職。
(聞き手:甲斐真一郎)

 大学で精密工学を勉強して 1971年に松下電工に入社すると、研究所に所属してメンズシェーバーの刃の開発などを手掛けた。5年後の76年からは独自の金型 CAD/CAMシステム開発、工場のコンピュータ統合生産(CIM)システム開発などを経験し、その後は一貫して生産技術畑を歩んできた。

 自前のプログラムで独自の金型向けのCAD/CAMを開発したことが、エンジニアとしての転機につながった。同システムは、83年に F社に販売するところとなり、F社がこれを商品化するに際して、学会や産業界向けに発表することを求めてきた。社外で話をする機会が多くなると、会社や業界を超えて人脈が広がるようになり、研究開発や生産の現場だけに限られていた私自身の視野を押し広げることになった。

 生産技術研究所では、松下電工の創業者丹羽正治が残した『智力繁栄』の精神に徹して、所員に対する徹底した基礎教育を施すほか、できるだけ社外に学会などの勉強と交流の機会を探し、開発成果を発表することを奨励している。それは私自身が、学会参加などを通じて外へ外へと視野を広げてきた道筋を、若い技術者たちにも辿ってもらいたいからに他ならない。

事業部横断
 松下電工には単独で約 1万 3千人の従業員がいる。生産技術者はこのうちの約 500人で、さらにその約 200人が生産技術研究所に集結している。どんな研究所でも陥り易い弊害のひとつは、技術者が「声はきれいだが翔べない籠の鳥」になってしまうことだ。しかし生産技術者には翔ぶ能力こそ要求される。企業の枠の中で育てられても、いずれその枠を超える力と志を持つことだ。

 このため現在では、研究の狭い枠を取り払い、生産技術研が松下電工の 6事業本部のモノづくりに関する全ての戦略テーマをお手伝いしている。各事業本部に配置されている生産技術者と連携協力して、生産技術研が横断的にモノづくりの戦略テーマを漏れなく手掛けている。

 かつての研究所では、開発が完了すれば依頼元の事業部に書類と装置を渡して終わりだった。しかしそれは技術開発完了であって、実用化完了ではない。だから現在では、開発完了の時点で開発した技術者を事業部の工場に派遣し、量産立ち上げまで見届けさせる。そこで社内外で評価されるような飛翔力を備えた技術者力が育まれる。他方、それでは研究所内の研究者数が不足するという問題が残る。このため国立研究所、産総研、大学などとの産官学連携や他社との技術、人材交流を通じて、使えるリソースはすべて活用させてもらう。

 6事業本部とモノづくりの戦略テーマで共同することには、既存事業商品の強化と新規商品の実現の両方が含まれる。新規商品に生産技術研が絡んだ例では、商品企画から試作検証まで遂行した全自動おそうじトイレ「アラウーノ」がある。商品化では陶器よりも汚れにくいアクリル樹脂を使って水機構と洗剤を組み合わせ、かつ製造コストを低減した。

 素材から金型、成形、表面コーティング技術など、松下電工はこれまで、事業部ごとに独自で多様な生産技術を蓄積している。これらを横串に刺すと技術のフュージョンで新規の融合技術を生むポテンシャルが高い。ただしこの融合を実現するために、生産技術者は異なる複数の技術領域にも専門的に対応できなければならない。

技術・技能教育が要
 2020年ごろには、現在の 40才前後の社員が企業の中枢的役割を担うが、社会現象的に、かつての大量採用時代に入社してきたこの年齢層が、経営面でも技術面でもモノづくりのリーダーシップを発揮できるかを懸念する声がある。その頃までに、日本は金型や工作機械の強みを「日本ブランド」にまで高める努力が必要だ。また、特に技術者には複数の技術領域にわたる専門性とそれを可能にする基礎力を教育によって身につけさせる必要を感じている。

 モノづくりの基盤は金型にあると教えられた。松下電工の商品の6~7割は金型によって形作られる。ところが松下電工内 7つの金型工場による金型自給率はせいぜい3割に止まる。すなわち提携先の金型企業に助けられて事業が回転している。問題は、事業が拡大する一方で、金型設計者が年々減少していることだ。

 自社内で金型技術を育てながら、社外の金型とも良好な関係を保ち続けたい。その思いから 07年に、電工グループ内で 3ヵ月プログラムの「金型設計塾」を開講し、金型設計者の育成に着手した。昨年は 8人が受講し、今年も 10人程度の参加を見込む。



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