仏Dassault Systemes社(ダッソー・システムズ)のSIMULIA ブランド(Abaqus ソフトウエアのマーケティングを展開するブランド)のチーフ・テクノロジー・オフィサーを務めるBruce Engelmann氏によると、HPCは、特に組織の内部でこれまで以上に幅広く普及すれば、複雑なCAE シミュレーションを取り巻く状況を大きく変貌させるだろうという。システムへの負荷や開発スケジュールに配慮して避けられてきた非線形解析などの複雑なモデリングも、コスト効率の高い演算能力を追加すれば、実施できるようになる。「線形問題ならば6時間で解けるかもしれないが、非線形にすると何日もかかる可能性がある。ところが、クラスタコンピュータを使って非線形ジョブを実行すれば、これを5〜6時間程度に短縮できる」(Engelmann氏)。
安価なHPCクラスタハードウエアもまた、エンジニアの仕事時間の短縮に役立つ。従来のように、演算時間を効果的に利用するためにモデルを周到に準備する必要がなくなるからである。「HPC自体はモデルの最適化に役立つわけではないが、事前の微調整をしていないモデルでもシミュレーションを実行でき、コンピュータの利用効率を上げることができる」(Engelmann氏)。
自動車用のアクスルと駆動シャフトを製造する米Dana社は、このことをまさに実証している。同社では、SMP(対称型マルチプロセッシング)ベースのHPCシステムを長年使用してきたが、最近になって、HPブレードサーバーとLinuxクラスタを導入し、分散コンピューティングをサポートするダッソー・システムズのAbaqus6.7ソフトウエアを使って、FEA/CFDシミュレーションの効率改善に取り組んだ。Dana社の先端技術マネジャーを務めるFrank Popielas氏によると、この新しい構成によって、シミュレーションの実行速度が4〜5倍になったという。「パワートレインの3Dシミュレーションは、以前は17時間かかっていたが、今では3〜4時間足らずで完了する」(Popielas氏)。「数週間かかっていた詳細モデルの計算も、2〜3日で終わるようになった」
こうした時間の短縮がPopielas氏のグループにもたらした最大のメリットは、設計プロセスの中で、シミュレーションを実施しようとする意欲が以前よりも高まったことだ。このことは、プロトタイプを製作する前に、最初から正しい設計をするうえで重要である。
SIMULIAの他にも、ANSYSなどのシミュレーションソフトウエアベンダーは、分散型/クラスタコンピューティングの利点を最大限に活用できるよう、従来から自社のアプリケーションを並列型アーキテクチャに改造する開発努力を続けてきた。具体的には、負荷を分割し、複数のコアとプロセッサに処理させながら、これらのプロセスを統括管理することになる。こうした手法は、理論上は簡単に見えるが、実現するには多くの手間がかかる。
マイクロソフトは、デベロッパーによる並列型コンピューティングへの移行を支援するため、07年11月にパラレル・コンピューティング・イニシアチブ(http://rbi.ims.ca/5702-587)というプログラムを実施すると発表した。これは、マルチコアのデスクトップやクラスタに展開可能なアプリケーションの構築に利用できる共通の開発ツールとプログラミングモデル、ならびにライブラリを提供するというものだ。
航空機と防衛産業向けのモデリング、シミュレーション、組み込みディスプレイグラフィックスの市販パッケージ製品を開発する米Presagis社によると、マイクロソフトのこうした取り組みが、自社製品のTerra Vistaツールをより多くのHPCユーザーに普及させる手助けになっている。Presagis社は、Terra Vistaを中心に、シミュレーションに必要なすべてのものを含むバンドルソリューションを提供するため、マイクロソフトとHPとの3社による提携をスタートさせている。ANSYS社もまた、マイクロソフトとの提携により、ANSYS 11とFluent 6.3の性能をWindows Compute Cluster Server 2003用にチューニングする作業を進めている。
マイクロソフトのサーバプラットホームの後継版となるWindows HPC Server 2008(http://rbi.ims.ca/5702-588) は、Windows Server 2008をベースOSとし、生産性、管理性、スケーラビリティに配慮した機能が搭載される。具体的には、高速のネットワーク性能、スケーラブルなクラスタ管理ツール、高度なフェイルオーバー機能、サービス指向アーキテクチャ(SOA)のジョブスケジューラ、ならびにパートナーのクラスタファイルシステムに対するサポートが搭載される。
HPもまた、複雑さを減らすことにより、従来とは異なる顧客層にHPCを売り込もうとしている。07年11月には、BladeSystem c3000ユニットをベースとするHP Cluster Platform Workgroup System(http://rbi.ims.ca/5702-589)を発表したが、これを使えば、中規模の企業でも、約0.186m2(約2 平方フィート)の床面積で、毎秒1テラフロップに迫る演算能力を手に入れることができる。このシステムは、通常のコンセントに差し込むタイプの電源を採用し、ネットワークケーブルや管理ツールなどを標準搭載するなど、一般的な企業でも使いやすい工夫が施されている。同プラットホームベースの最初のバンドル製品には、HP Workgroup System 上にWindows Compute Cluster Server 2003とANSYS Fluent CFDを搭載したパッケージが含まれる。
HPのハイパフォーマンスコンピューティング部門のマネジャーで、製品およびテクノロジーマーケティングを担当するEd Turkel氏は、「HPCの普及を妨げる障害の大部分は、導入や運用の複雑さに起因している。ほぼ完全なソリューションを提供することによって複雑さを取り除けば、導入への敷居を下げることができる」と言う。
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