モノづくりと人材・技術経営

モノづくりに感性情報を組み込む
アーキテクト・エンジニアの時代

[2008年05月号]

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オムロン インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー
十河太治QLM ソリューション事業センタ所長

ソゴウ・タイジ 84 年立石電機(現オムロン)入社、中央研究所に配属され、人工知能の研究開発に従事。89 年ファジィ推進センタに異動、故障診断システムなどの開発に従事。96年から新事業開発センタで文書意味処理技術の開発と事業化を担当。99 年IAB カンパニー技術統括センタでPC ベースコントローラの商品化などに従事。01 年IAB カンパニー経営企画部長。04 年から現職。

(聞き手:甲斐真一郎)

 大学では文学部哲学科で心理学を専攻した。実験心理の領域で学習メカニズムをテーマに、プリミティブな学習は動物のなかでどのように起きるかを行動面から測定する研究をしていた。「レバーを5 回押したら餌が出る、ということをねずみはどうやって学習するか」を実験テーマとしていた。

レバーを5 回押したら餌が出る
 その実験のためにねずみが走る迷路を作り、制御回路を設計し、Z80 搭載のシングルボードコンピュータなど部品を買ってきて装置を自作した。コンパイラではなく機械語でプログラムを書き、マイコンボードに組み入れ、複雑な学習パターンを研究するために、乱数発生器と連携した実験装置を作った。そうこうするうちに、段々装置作りの方が面白くなって、コンピュータ系のモノづくりを志望するようになった。

 文系出身でモノづくり志望の若者を社員として雇う企業は当時ほとんどなかった。だがオムロンから当時長岡京市にあった中央研究所で面接しようと連絡があり、それが縁で入社した。人間の脳のはたらきをコンピュータに類推して理解を深める「認知科学」のはしりの時期で、面接ではその話を大いに聞いていただいたのを憶えている。

 オムロンには、機械化社会、自動化社会から情報化社会へ、さらに最適化社会へという社会発展と、制御科学、サイバネティックスからバイオネティックス、さらにサイコネティックスへと進展する科学との相関によって技術の進展を予測する未来シナリオ
〈SINIC 理論〉がある。オムロンは、究極は精神中心社会まで行くという未来ビジョンを持つ会社であり、そのころ私は心理 側から科学を探っていたが、科学側から心理を探っていた会社とどこか波長が合ったのではないかと思う。

 当時、通産省、科技庁などによる第五世代コンピュータ機構が設立され、Prolog という論理型言語でプログラムを走らせて人工知能を実現しようという国家プロジェクトが立ち上がっていた。研究所での私の認知科学系の仕事も、Prolog 言語でプログラミングすることから始まった。

 入社から2.3年目に、UNIX オペレーティングシステムのBSD(バークレー版)を開発したBill Joy のソースコードを読んだことがひとつの転機となる。

Bill Joy のソースコード
 当時オムロンは、ワークステーション(WS)事業に進出。UNIX を日本語化するプロジェクトのなかで、私はソフトウエアの強化要員としてBill Joy が開発したvi エディタの日本語化を任された。その作業過程で、その天才プログラマーが書いたソースコードに目を奪われた。彼のソースコードを改造するところまで読み込んだ時はじめて、彼が構築したアーキテクチャが開けて見え、その大事さに気づかされた。

 私は、それまで何かをコントロールするためにソフトウエアを書いていた。これに対し、Bill Joy のソフトウエアは物語であり、シナリオであり、アーキテクチャだった。彼はコンピュータのメモリのなかに、どんな構造を上手く作り込んで、さらにどのように上手く動かすか、将来の拡張の可能性も残して、という発想でソフトウエアを作っている。それは、たとえば、この国にはこのような歴史、地形があり、住民たちがいて、さあこれから物語が始まる、というような一種の冒険小説を読むような経験だった。

 ソフトウエアがコンピュータのデータ構造のなかに世界を作り上げ、それに対して人間が外から介在するためのインタープリタが存在する。ソフトウエアを書くということは、コンピュータのなかにひとつの世界をつくることに他ならなかった。



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