Calamities 本当にあった事故例

超高強度ワイヤー・ケーブルを切断する風

[2008年07月号]

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 ワイヤー・ロープあるいはワイヤー・ケーブルは、強くて柔軟、そして耐久性がある。ただし、それは直線方向の力に対してだけで、特によじれは禁物だ。ワイヤー・ロープは通常、鉄製の滑車に巻いて使用する。装荷ケーブルを滑車の縁の上に這わすとよじれが生じ、ケーブルの強度が大きく損なわれる可能性がある。

 今回の事故は、ボストン北部にある巨大天然ガスタンクの塗装中に発生した。作業員は、鉄製の足場から作業をしていた。足場は、タンク頂上にある“エピ”と呼ばれる部分から吊り下げられていた。車輪付きガイドを使うことで、ケーブルがタンク上部と側面の継ぎ目に触れないようにしていた。

現場の状況
 事故発生当時、かなりの強風が吹いていた。そのため、ビニール製カバーで足場と作業者を覆い、塗装作業を進める必要があった。足場は地上約9m(30 フィート)の高さにあった。この高さでケーブルの1本が切れ、作業者が落下して重傷を負った。誰も命綱を装着していなかった。

捜査開始

不具合のあったケーブルの顕微鏡写真。切断された素線を捉えている

 ケーブルは、“プラウ・スチール”と呼ばれる高炭素鉄合金で作られていた。この鉄合金は熱処理後、常温引伸ばしされ、細いながらも超高強度な素線となる。今回の場合、素線径は約0.254mm(1/100インチ)で、人毛の約3倍の太さだった。素線の一部を手でまっすぐにしようとしたが、指が切れてしまった。素線はそれほど硬かった。

 今回の事故では、19本の素線を撚り合わせることで1本のストランドが作られ、さらに6本のストランドを撚ることで4.76mm(3/16インチ)径のケーブルが作られていた。私は、破断強度を約4.5トン(1万ポンド)と見積もった。これは、大きな雄象と同じ重さだ。作業者の体格はいずれも平均的で、足場もそれほど重くはなかった。かなりの異常が発生したようだが、その原因は何か?

 訴訟当事者達が雇った専門家により、走査電子顕微鏡を使った共同調査が行われた。掲載したのは、不具合が発生したケーブルの電子顕微鏡写真だ。切断された素線が1本、そして、問題のない素線とともに損傷した素線があるのが分かる。切断部分は、高強度鋼で起こりえる状態のものだ。では、損傷の原因は何だろう?

 専門家の1人がある意見を述べた。ガイドの誤作動により、ケーブルがタンク上部と側面の継ぎ目と擦れ合ったという意見だ。また、この専門家は、損傷はケーブルとタンクが擦れ合ったのが原因とも主張した。私は、この専門家の意見のうち、最初の意見には賛成だ。しかし、もう1つには同意しかねた。素線は非常に硬いので、軟鋼製のタンクと擦れ合ってもバターと擦れ合うのと同じ程度の影響しか受けない。何か別の力が働いたようだ。

動かぬ証拠
 目撃者の話によると、事故発生の直前、風により足場が持ち上がって、その後に落ちたという。その結果として生じたケーブルの急激な動きは、応力波をケーブル沿いに下から上へと伝搬させたと考えられる。しかし、ケーブルのある部分で急停止を余儀なくされたのだろう。そう、タンクとの接触部分でだ。応力波のエネルギーが接触部分で拡散されることで、ケーブルは自らの内部で、そして、タンクとも衝突する。このような現象による力なら、硬いプラウ・スチールの素線を損傷させることが可能、と考えるのは理にかなっていると思えた。子供の頃、皮ひもなどを振ってむちを使っているような音を鳴らす“Crack the Whip”と呼ばれる遊びをしたことがあるならば、応力波の伝搬効果については理解できるだろう。

 今回、私は宣誓供述書を取られたが、証言台に立つことはなかった。おそらく法廷外で和解となったのだろう。

Kenneth Russell 米マサチューセッツ工科大学 名誉教授
Kenneth Russell 米マサチューセッツ工科大学 名誉教授 Ken Russell氏(kenruss@mit.edu)は米マサチューセッツ工科大学の金属学及び原子核工学の名誉教授である。彼は金属物理学、法金属学、故障解析を専門としている。今回紹介されたケースは彼の法的ファイルより引用した。

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