研究フロントライン「航空と流体」

第2回

磁気プラズマセイル

[2008年07月号]

By 森下悦生
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 宇宙の彼方に旅する探査機の重要な要素技術は推進機である。何年にもわたるミッションのため、通常のエンジンとは異なる独自の技術が用いられている。最近の有名な成果は、小惑星イトカワに到着したはやぶさのイオンエンジンであろう。これは電気推進と呼ばれるものである。このようなエンジンの推力は微々たるものであるが、推進剤の使用量が相対的に少ない高い比推力が得られ、宇宙航行に有利である。

電磁流体力学

磁気プラズマセイル

 このような推進機の設計の基礎となる学問が電磁流体力学である。スウェーデンの科学者アルフェーン(アルフベン)によって深く研究された。ウィキペディアには、生涯学会の主流な人物とは認められず、特に米国の学会誌からはリジェクトされ続けたとの記述がある。ノーベル賞受賞後もその傾向は変わらなかったとのことである。

 電磁流体力学は、電磁気学のマックスウェルの方程式と流体力学の支配方程式を組み合わせるものである。工学分野では、運動方程式の右辺に電磁力を付加したような形で扱う。電磁力はローレンツ力と呼ばれる。そもそもマックスウェルはストークスの考えた流体力学の方程式を眺めつつ、電磁気学の方程式を考えたという話を読んだ記憶があるが、両者の方程式は双子のようによく似ているのが興味深い。例えば、電流と渦糸が同じような数学概念で扱えるところなどである。また理想的な条件では、ラプラスの式やポアソン方程式といったものが現れ、数学の世界では区別がなくなってしまう。

 電磁流体力学の方程式を整理すると、流体速度と磁束密度を未知数とする非線形の方程式に帰着する。都合の良い条件では解析解などもあって、二次元平板間の粘性流れに磁場を加えた場合のハルトマン流れなどが有名である。低速の電磁流体力学では、磁場を加えると何でも抑制されたような結果に見えるような気がするが、これはジュール損のためだろうという、分かりやすい推論もある。散逸過程のために変動が抑えられるだろうというものだ。このように計算で答えが得られるようなものでも、真偽のほどを確かめるには実験が必要だ。普通の流体問題ほど身近なものでもなく、物理的な真相を知るにはさらなる研究が必要だ。

磁気プラズマセイル
 電磁流体力学を基礎とする、宇宙機の新しい推進機構である磁気プラズマセイルは、JAXAでも研究されている。若手メンバーの一人である西田浩之博士によれば、磁気プラズマセイルは、太陽風のエネルギーを利用した推進機構であるとのことだ。宇宙機の作る磁場が、太陽風を受ける帆になるのだ。更に宇宙機からプラズマジェットを噴射することで、帆となる磁場を大きく押し広げる磁場インフレーションという方法を用いる。

 西田博士の研究によれば、太陽風の磁気音波が宇宙機まで伝播すれば推力が発生し、そのためには宇宙機の周囲に磁気音速よりも遅い流れを作り出せばよいという。

 この技術はようやくその作動原理が解明されつつある段階と見受けられたが、工学的な実現可能性ということが次のステップとして重要なのは言うまでもない。この研究では磁気音速も現れるため、流体の音速も含めた場合分けの計算が従来のCFDに比べても格段に複雑なものになるとのことである。

 西田博士との質疑応答の中で、電磁力を等方的な磁気圧と張力に分解することの意味合いについて、分かり易く明快なイメージが得られたのは大きな収穫であった。

森下悦生
モリシタエツオ 1949年三重県生まれ。東京大学工学部航空学科卒、同大学院修士課程修了、ケンブリッジ大学工学部修士課程修了。1974年三菱電機に入社、スクロール圧縮機の研究開発などに携わる。1993年より現職、東京大学大学院航空宇宙工学専攻、教授として教鞭を取る。

●著者連絡先
tmorisi@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp



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