モノづくりと人材・技術経営

顧客先と製造部門を歩けば
開発アイデアは具体化する

[2008年07月号]

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THK 常務取締役 白井武樹氏

シライ・タケキ 1971年日本トムソンを退社し同年設立されたばかりの東邦精工(THKの前身)に6月入社。以後一貫して「直動システム」の技術開発畑を歩み、82年10月技術部長、88年取締役技術部長に就任。92年取締役技術本部長となり、04年6月から現職。

(聞き手:甲斐真一郎)

 一部上場企業から飛び出して創業したばかりの寺町博から「ボールスプライン」の特許出願の書類を見せられ、「白井君、これ面白そうだ」と言われたのが始まりだった。会社設立の1971年に創業社長は48才、技術を任された私は28才だった。全くの開発型ベンチャーであり、他で売れている製品をコピーして安く売ろうという発想は皆無だった。ただし、新製品を自ら創案して市場に提案していこう、新風を吹き込もうという社風や、上司部下のタテ意識をあまり感じさせない雰囲気は今も健在だ。

初期の開発と営業
 私はボールスプラインの開発に魅力を感じこれに打ち込んだが、当初は量産工場もなく売るモノもなかった。営業マンといえば、意気は軒昂だったが資材や購買には行けず、直接、顧客の技術部門に設計を依頼し、作った製品を納めて凌いでいた。77年には甲府に工場を買い、製造の体制を整えていった。実際に開発商品が市場に売れ出したのは78年頃からだ。それまでは甲府の宮入バルブ製作所の軒先を借りて開発し、製造部隊もその中に入って生産するありさまだった。

 幸い、ボールスプライン製品の評価は高く、最初に東芝の工業用ロボットTOSMANのシャフト内に採用されて自信がついた。ボールスプラインは軸方向にスライドするスプラインの転がりバージョンだが、特許侵害されて15年間も争ったことがある。72年には「LM(リニアモーション)ガイド」を開発した。ボールスプラインの軸がたわまないようにゲタを履かせて、ガタのない直動を実現したのがLMガイドの原点だった。

 LMガイドの工作機械への採用は、78年の米K&T社が最初だった。同社は後に世界初のマシニングセンターの開発メーカーとなる。当時、われわれも工作機械にどうやってガイドを使えば精度が出せるかが分らなかったから、ユーザー企業であるK&T社に使い方、組み立て方まで指導してもらったことを憶えている。現在ならばFEM(有限要素法)解析で剛性の計算が可能だが、ビビリの原因は非定常的だから当時は対策が難しかった。ちなみに83年に旋盤で最初にLMガイドの採用を実現したのは、日立精機だった。旋盤工作の精度要求も厳しく、ビビリ対策で大いに苦労した。

開発は連続して繋げる
 開発は「これは行けそうだ」と判断したら次々とユーザーのニーズ、シーズを取り込んで連続して繋げることが極めて重要だ。81年から出した「4方向等荷重形LMガイド」はベストセラーになり、業界標準としてISOに近々取り込まれることになっている。96年には「ボールリテーナ入りLMガイド」の製造販売を開始した。ボールリテーナは2000年度精密工学会技術賞を受賞した。このグリースポケットにボールを保持し案内する樹脂構造は低騒音、グリース使用量の削減、高速性能に最も効果を発揮している。この開発には100件近くの特許を出願した。自転車のチェーンのような構造を試行錯誤するなかで、リテーナに高分子樹脂を採用する発想は、技術部の若手エンジニアから出てきたものだった。金型加工に加え、樹脂の耐熱、耐油、柔軟性などに材料の工夫が必要で、樹脂成形の工程は内製化している。

 われわれは製品のユーザーである装置や機械のプロではない。機械条件は進歩する。ユーザー側と常に最新の条件で打合せしながら開発を進めなければ思わぬ失敗もする。旋盤をビルトインのスピンドルモーターで回すのがまだ珍しい時代に、モーターの発熱でテーブルが膨張する一方、ベッドは伸びないから熱応力でこの間の破壊が起り、ユーザーから多くのクレームを受けた苦い経験が私にもある。

市場の声と生産現場の声
 私は技術畑にいながら、世界の顧客に商品を説明して歩いてきた。顧客の要求と生産現場の要求、市場の声と工場で製品を生産している担当者の声、その声を蓄え、蓄えしていくと開発の智恵が出てくる。顧客の叱咤激励ほど技術者の心に響くものも他に見当たらない。

 「すべり案内のころがり化」を製品化してきたTHKでは、これから様々な応用開発に挑戦していくことになる。コア技術を使った応用技術の開発領域が開けている。免震装置としてビル、建屋の耐震構造をすでに確立した「転がり支承」技術がある。これとゴム材との組み合わせが市場を拡大しつつある。また若いエンジニアが中心になって、プロジェクタのレンズ位置をX-Y制御する機構、小型のリニアアクチュエータ制御によるロボットハンド、医療用ロボット、自動車のスタビライザーロッド部品など新領域で、新たな応用開発にチャレンジしている。



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