December 2005
レクサスの信頼性が高い理由
北米と欧州の自動車メーカーは、トヨタのレクサスやホンダ並みの信頼性の高い車を作ることができるだろうか?「機能的構築」というコンセプトを使うなら可能だ。
著者_CHARLES J. MURRAY
シニアテクニカルエディター
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数年前、自動車のドア・アセンブリ(ドアの組立部品)について調査していた研究者のJay Baron氏は驚くべき発見をした。ある自動車メーカーのドア・アセンブリは、ほとんど完璧といえる部品から作られたものだったが、そのアセンブリに対する顧客からの評価が低下していたのだ。顧客の不満はドアに水漏れがあるというものだった。そこで半生をかけてこうした問題の研究に取り組んできたBaron氏は、米国内の自動車メーカーのエンジニアリング機関にこの悪いニュースを伝えに行った。
しかし感謝の喝采を浴びるどころか、Baron氏は嘲笑で迎えられた。「彼らが笑ったのは、彼らのあらゆるデータが素晴らしいドアを作っていることを語っていたからだった」とBaron氏は言う。Baron氏はミシガン州に拠点をおく自動車産業界のシンクタンク、Center for Automotive Research(CAR:自動車研究センター)の社長である。「問題は、彼らのデータが顧客からではなく、測定結果から集められていたことだった」(同氏)。
実際、エンジニアたちは、測定に次ぐ測定をドア・アセンブリに対して何千回と行っていた。しかし、日常使っている間にドア・アセンブリから水漏れするとは知らなかったのだ。しかしBaron氏によれば、測定結果が品質と信頼性を確保するための対策だと思い込んでいたのは、このエンジニアたちが最初でも最後でもなかったという。
ここに、Baron氏がこうしたエンジニアリング・チームに向けたメッセージがある。部品に対して途方もなく厳格な許容誤差を求めることで品質が向上すると考えているなら、二流の業績になってしまう、というものだ。Baron氏が言っているのは、高い信頼性は完璧な部品を作ることによって得られるわけではない、ということだ。その証拠として、同氏はアジアの自動車メーカーを引き合いに出している。Consumers Union(米消費者同盟)と米J.D. Power and Associates社が行った調査によると、アジアの自動車メーカーはこれまで約30年間にわたって最も信頼できる自動車を作ってきたという。今年、J.D. Power and Associates社は、最も信頼できるブランドとして日本のレクサスの名前を挙げた。また、米Consumer Reports誌では、「間違いのない」中古車の上位54車種のうち46種をアジア製の自動車が占めている。一方、Consumer Reports誌の「好ましくない」中古車34車種のリストにアジア車は入っていない。また、同誌の調査によれば、100項目当たりの問題点の数を比べると、8年落ちのレクサスのほうが6カ月落ちのBMW 7シリーズよりも少ないことまで明らかになったという。こうした品質の優位性についてBaron氏は、日本の自動車メーカーが行っている測定項目が少なく、不完全な部品が多いためだ、と言っている。なんと、不完全な部品というのは本当なのだろうか。その通りである。Baron氏の研究によって、信じがたいことに、日本メーカーの注意はあらゆる構成部品の隅々にまで向けられているという話は事実ではなく、作り話に過ぎないということが明らかになっている。アジア製の車にこれほどの信頼性を与えてきた製造手法は、完全性よりも一貫性と製造上の優れた取り組みに関係している、とBaron氏とCARの同僚たちは言っている。
「これは直感に反している」とCARの主任であり、以前ミシガン大学で自動車工学の教授をしていたDavid Cole氏は言う。「道理にかなっているようには思えないのだが、普段から多少質が低くても出来具合が同じような部品を製造できれば、品質の問題の多くをシステムレベルで解決できるのだ」(David Cole氏)。
Consumer Reports誌が車の所有者に対して実施した調査では、8年落ちのレクサスのほうが…
…6カ月落ちのBMW 7シリーズよりも100項目当たりの問題の数が少ないことが明らかになった。
きめ細かい管理は必要ない
Baron氏はもともと、1980年代終わりに博士論文のための研究をしている間にこうした直感に反する事実を学んだ。同氏の論文は米国の自動車メーカーと製鉄会社から資金援助を受けており、同氏は米国と欧州、それにアジアの製造工場に出向いて調査を行った。この旅行の途中でBaron氏は、驚くべき事実を偶然に発見した。それは、日本の工場ではエンジニアたちによる製造工程の監視が、北米や欧州ほど念入りには行われていなかったということである。
「私たちは、『部品をほとんど測定しないのに、どのようにして高い品質を得ているのか』と尋ねた」とBaron氏は回想する。
同氏と他の研究者たちが気付いたのは、日本のエンジニアたちが安定した工程を通して部品を製造していたことだった。
「工程が安定していれば、それほど頻繁に測定を行う必要はない」とBaron氏は言う。
意外なことに、こうした工場のおよそ20%の部品が「仕様」を満たしていなかったことにも同氏は気付いた。構成部品の品質が低いのに、どうすればシステムの品質がこれほど高くなるのか、と同氏は疑問に思った。その答えがその工程に隠されていたことを同氏は悟った。個々の部品の品質に注目する代わりに、日本のエンジニアたちはシステムとしての品質に注意を向けていた。そうすることで、不完全な構成部品の寄せ集めをうまく組み合わせて、信頼できるシステムに作り上げることができるのだ。
Baron氏は日本のエンジニアの工程を、大工がベースボードをくぎで固定して1枚の乾式壁に作り上げるプロセスに例えている。最初から厳密な仕様に従って各ボード片を切るのではなく、大工は単にすべてのボード片を組み合わせていき、最後の1枚を残った部分にぴったり合うように切るのだ。その結果、やはり質の高い組立品が出来るとBaron氏は言う。
「大工がやるべきことは、最後のボードの調整を行うことだけだ。そうすれば、その組立品は完璧に仕上がる」(同氏)。
「日本製品の品質についてはある種の誤解があるのだ」とBaron氏は言う。「人々は、日本の自動車メーカーはあらゆる部品をかなり精密に作っていると信じているが、それはまったく違う。日本の自動車メーカーが各部品を厳格な仕様に合わせて作ろうとはしていないということが分かった。ただ組み立て品を仕様通りにしたいだけで、工程を細かく管理しているわけではない」(同氏)。
確かに、この技法の提唱者は誰ひとりとして、完全な部品が悪いとは言っていない。むしろ、日本の自動車メーカーが信じているのは、完璧さはどれだけ追求してもとらえどころがなく、結局は多大な時間とお金がムダになるということだ。
「個人的には、完全な部品には何も問題はないと考えている」とBaron氏は言う。「しかし、完全な部品を作ろうとするとコストが途方もなく高くつく。だから、割に合わないのだ」(同氏)。
伝統的な品質の用語を使って書かれているBaron氏の論文によると、アジアの自動車メーカーの手法はいわゆる「Cp」、すなわち、ロット間で一貫した結果を生み出す能力を測る尺度に注目したものだという。一方、欧米ではいわゆる「Cpk」という、特定の部品が絶対的な測定値の範囲内にどれだけ適合しているかを示す尺度に注目している。
「日本の自動車メーカーは、部品間のばらつきを小さく抑えようとしている。その上で、仕様に合わない寸法をうまく調整するのだ」とBaron氏は言う。
従来の製造工程では、各部品がいわゆるCpk(部品が一連の厳格な寸法公差に適合しているかどうかを示す値)のすべてに合格しなければならない。機能的構築では、部品がほぼ合格していれば組み立てに使用される。そして、全体の組み立ては品質を高めるように行われる。
自動車のドアについてのCARの調査では、日本のメーカーのドアはCpkによる測定では最も低い品質だったが、顧客による評点は他よりも高い。これとは対照的に、北米製のドアのCpk値は日本製より高かったが、顧客による評点は中間的なレベルになっている。
信頼性の本質
「機能的構築(ファンクショナル・ビルド)」と呼ばれるこの手法は、米国の自動車メーカーの間で注目を浴び始めている。
「General Motors社は、ここ数年こうした取り組みを実践しており、クライスラー社もこの方向に動き始めている」とCole氏は言う。「フォード社はもう少しゆっくりしていたが、彼らもまたこの手法を使い始めている」(同氏)。それでもなお、米国とヨーロッパにおけるこの技法の採用は部分的である。一方、アジアではごく一般的な技法となっており、特にホンダとトヨタでは進んでいる、とBaron氏は言う。
自動車メーカーは、この工程を製造ラインで使用することについて、他社との競争に関わる問題だとして、この記事向けに公表したがらなかった。しかし、北米の機械工具メーカーによると、この技法は顧客である自動車メーカーだけでなく、機械工具メーカーにも利点をもたらしているという。
「そのやり方が最も良いのだが、顧客の望みであれば私たちがそれを使うのは当然だ」とデトロイトに拠点を置くAtlas Tool社の社長、Mark Schmidt氏は言う。同社は自動車メーカー向けのプレス用金型を製造している。
Schmidt氏によると、金型メーカーと同様に自動車メーカーでも機能的構築がコストの節約になるという。同氏は、自動車用ルーフの製造工程に機能的構築を採用したある自動車メーカーの例を挙げている。その工程の途中で、ルーフの8個所に仕様に合わない点が見つかったという。しかし、その自動車メーカーは8個所すべての修繕ではなく、わずか3個所の修繕をAtlas社に依頼した。機能的構築を利用することで、三つの問題個所だけを直せば、組み立て品の組み合わせは良くなり、金型も早く完成し、コストも下がるはずだ、と自動車エンジニアたちは判断したのだ。
「機能的構築を用いていなかったら、この自動車メーカーは数ある許容誤差のうちでどれが重要でどれが重要でないかを知ることはなかっただろう」とSchmidt氏は言う。「しかし、このメーカーは部品の品質だけではなく、最終製品の品質に力を注いだため、最終的により低いコストで優れた製品を作ることができたのだ」(同氏)。
Atlas Tool社などのメーカーによると、この技法を自動車用のルーフ、フード、トランク、ドア、クロスメンバー(横材)、およびフレーム部品に利用しているという。この手法はインストルメントパネル(インパネ)などのプラスチックと電子部品の組み立て品にも適用できる、とBaron氏は言う。
機能的構築を利用している人々は、この技法は従来のCpkベースの手法より道理にかなっている、と言っている。完全な構成部品を作ろうとするメーカーは不可能なことをしようとしているのだ、と彼らは言う。
「ボディサイド(アセンブリ)が100%仕様に合致することなど、製造のどのような段階においても絶対にあり得ない」とAtlas Tool社のSchmidt氏は言う。「単に不可能なのだ」(同氏)。
しかし、米国内の自動車メーカーの多くは完全な部品のコンセプトを推進し続けている。板金などの材料から作られる部品は、製造の途中でゆがんでしまうことがよくあると知っているのだが。さらに悪いことに、こうしたゆがみを補正すると、部品の他の個所が仕様に合わなくなることもある。
Baron氏は、ある自動車メーカーが一つのドアの金型に対して1,400個所のチェック項目を要求したプロジェクトのことを思い出すという。「ほとんどの設計者は、一つの金型に1,400ものチェック項目を指定すれば、良い品質を定義したことになるだろう、と考えている」とBaron氏は言う。「しかし、誰も1,400ものチェック項目を確認することなどできない。完全な部品を作ろうとしているのだ、と彼らは言うが、実際にやっていることは金型の価格を吊り上げることでしかない」(同氏)。
信頼性の高い車種
ホンダ オデッセイ
ホンダ シビック
ビュイック リーガル
C onsumer Reports誌が「間違いのない」中古車の2005年版リストに挙げた54車種のうち、実に46車種がアジアの企業によって製造されたものだった。(括弧内の数字は、リストに挙がった各自動車メーカーの車種の数を示す)
アキュラ(5)
ビュイック(1)
シボレー(1)
クライスラー(1)
フォード(2)
ホンダ(6)
インフィニティ(4)
レクサス(5)
リンカーン(1)
マツダ(4)
マーキュリー(2)
三菱(1)
日産(3)
スバル(4)
トヨタ(14)
信頼性の低い車種
メルセデス・ベンツ Cクラス
ポンティアック アズテック
フォルクスワーゲン ニュービートル
Consumer Reports誌が2005年の「好ましくない」中古車のリストに挙げた34車種のうち、21車種が北米、13車種がヨーロッパのものである。アジア製の車種は一台も入っていない。(括弧内の数字は、リストに挙がった各自動車メーカーの車種の数を示す)
アウディ(1)
BMW(1)
シボレー(5)
クライスラー(1)
ダッジ(2)
フォード(1)
GMC(5)
ジャガー(2)
ジープ(1)
ランドローバー(1)
リンカーン(1)
メルセデス・ベンツ(4)
オールズモビル(2)
プリマス(1)
ポンティアック(1)
サターン(1)
フォルクスワーゲン(3)
ボルボ(1)
品質に対しての考えを変える
この技法の考え方が正しいことはアジアの自動車メーカー各社の成功によって証明されている、と機能的構築の提唱者たちは主張している。事実上のあらゆる客観的な尺度によって、日本の自動車メーカーは品質の高さを少なくとも四半世紀にわたって誇示している。Consumer Reports誌は、毎年、車体の分解と、600,000人以上の車の所有者に対する調査を行っているが、繰り返し高い評価が与えられているのは、ホンダ、トヨタ、日産、マツダ、スバル製の自動車である。アジア製の車はConsumer Reports誌が発表した今年の「好ましくない」リストに1台も挙がっておらず、最低価格帯の日本製車種の中には、信頼性において高級車に勝るものがあった。例えば、14,000ドルのホンダ シビックは今年、アウディA6やBMW 7シリーズ、メルセデス・ベンツのCクラス、CLK、Mクラス、およびSクラスの車よりも良い評価を受けている。
「ほとんどの場合、最も信頼性の高い自動車はホンダ製やトヨタ製だった」とConsumer Union(米消費者同盟)の自動車試験機関でテスト担当のディレクターを務めるDavid Champion氏は言う。「それに、ホンダとトヨタの自動車は、構造の複雑さと電子機器の機能の多さではメルセデス・ベンツやBMWとまったく同じだが、うまく作り込まれているようだ」(同氏)。
確かに、Champion氏などの専門家たちが多くのドイツ車の最高級のパフォーマンスに対して疑問を持っているわけではない。しかし、信頼性における競争となると、また別の問題だと彼らは言う。
「信頼性によって、日本車が世に知れわたったのだ」とChampion氏は言う。「日本の各自動車メーカーが最初に出したカローラ、スタンザ、およびアコードは、特に目立った車ではなかった。しかし、消費者はこれらが十分に役に立つ車であると知っていたのだ」(同氏)。
それでもなお、北米と欧州の自動車メーカーは、変化への恐れや企業の政策などのさまざまな理由から、日本の自動車メーカーの技術をなかなか採り入れようとはしなかった。
「ずっと持ち続けてきた知恵を変えることは難しい」とCARのCole氏は言う。「そして、これまでの考え方ではどんなときも、完全な部品こそが完全なシステムを作るとされてきたのだから」(同氏)。
求められる設計の経験
機能的構築の提唱者たちは、その手法を導入するのはとても困難なことだと重々承知している。今日の慣習的な手法を維持していくことが簡単なのは、誰もリスクを負う必要がないからだ、と彼らは言っている。このような従来の手法は部品の良否を決めるための確固たる、そして、定量的な理由を設計者に与えているのだ。
「金型が不完全だと言ったからといって、処罰を受ける者はいないだろう」とBaron氏は言う。「完全な部品を作り、それに基づいて判断を下そうとするふりをするのは簡単なことだ」(同氏)。
機能的構築を実行するには設計の力量が必要となる、とAtlas Tool社のSchmidt氏は言う。「『その寸法公差については心配するな。この部品には意味のないものだ』と言い切れる経験を積んだ設計者が必要になる」と同氏は言う。「しかし、経験のない設計者にはどの寸法公差を大目に見ればよいのか分からないため、何も許容できない。結局、経験のない設計者はあらゆるものを完全にしようとする」(同氏)。
機能的構築を成功させる鍵は、OEMとベンダーとが協力し合う環境にある、とSchmidt氏は信じている。両者が進んで協力し合い、この二つのグループ間でしばしば起こる責任の追求を行う前に自ら行動を起こさなければならない、と同氏は言う。さらに、エンジニアリング部門は、結果的には製造コストを大幅に削減できるということを理解した上で、積極的に時間と手間を製造工程に投資しなければならない。そのときこそ、エンジニアたちは完全な部品が完全なシステムを作るという考えを不安なく捨て去ることができるだろう、と同氏は言う。
「完全な部品が悪いわけではないのだ」とCole氏は言う。「ただ、完全な部品を作るのは途方もなく難しいだけだ」(同氏)。
設計者のための「機能的構築」入門
機能的構築というコンセプトを採り入れることで、設計エンジニアはシステムの信頼性を高めることができる、とCenter for Automotive Research(CAR:自動車研究センター)の社長であるJay Baron氏は考えている。これを実現させるために、同氏は次の二つの方針に従って設計者たちに考えを変えるように助言している。
●厳しい許容誤差および多くのチェック項目によって、品質が向上するとは考えないこと。モールド金型やプレス金型に対して必要のないチェック項目を増やしても、コストを吊り上げ、納品間際になってパニックを引き起こすだけだ、とBaron氏は言う。「これらのチェック項目を仕様に合わせなければならなくなる上、絶対に品質は向上しない。工程にかかる時間が増えるだけだ」と同氏は言う。
●設計を行う部品の金型の製作および組み立ての工程に精通すること。製造についての知識が不足していると、設計者たちは非現実的な仕様に固執してしまう、とBaron氏は言う。仕様外の公差すべてをそのままにしておくことは簡単だが、それは必ずしも得策とはいえない。「システムがどのように組み立てられるかを知っていれば、組み立て工程がコストに対してどれだけ影響を与えるかが分かるだろう」とBaron氏は言う。
ウェブ情報源
CARによる、自動車の設計と開発に関する最近のデルファイ調査(科学技術の中長期発展に関する専門家の見解を把握するためのアンケート調査)については、以下のサイトをご参照ください:
http://rbi.ims.ca/4398-570
Design Newsアーカイブの関連情報
自動車メーカーが信頼性の問題にどのように取り組んでいるかについては、次のサイトをご参照ください:
http://rbi.ims.ca/4398-571
米Maytag社がどのように製品の信頼性を設計しているのかについては、次の二つのリンクをご参照ください:
http://rbi.ims.ca/4398-572
http://rbi.ims.ca/4398-573