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これは映画の中だけのことなのだろうか? 実は、そうとも言えない。 2005年初め、米国Rehabilitation Institute of Chicagoでこのような技術の基礎を築く最初の試みが行われた。Jesse Sullivan氏の新しい腕と肩がストラップで体に固定されたのである。Sullivan氏はテネシー州の電力会社の架線作業員で、作業中の感電事故の後、両腕の切断手術を受けた。同氏はすぐに人工の腕を持ち、それによって手首と上腕を回し、ひじを曲げ、手で物を握ることができるようになった。そして信じられないことに感覚まで回復したのである。ルーク・スカイウォーカーと同様に、Sullivan氏はわずか数分の学習で新しい腕に慣れることができた。この義手は、本物と同じような神経回路を主に使ったからである。 「Jesse氏について興味深いのは、彼が事故前の生活でいつもしていたのと同じことを今もしているだけ、ということだ」と米Liberating Technologies社の社長、Bill Hanson氏は言う。同社はSullivan氏のデジタル式義手を製造した会社である。「彼がテーブルから何かを持ち上げようとしたり、頭の上の物を取ろうとした場合、彼の思考プロセスはほかの人と同じである」(Hanson氏)。この義手は回路的に実物の腕と変わらないため、Sullivan氏はその使い方をおよそ90分で習うことができた、とHanson氏は言う。 「この義手内部ではいろいろなことが起こっている」とKevin Englehart氏は言う。Englehart氏は、カナダのNew Brunswick大学、医用生体工学研究所のアソシエイト・ディレクターであり、この義手の設計に携わった一人である。「使用者が学ぶためには、迅速な感覚合わせが必要となる」(Englehart氏)。
カラダの回路を引き直す Sullivan氏の義手の内部ではたしかにいろいろなことが起こっている。しかし、この義手の優位性を最も痛感するのは、従来型の義手の使用者だろう。現在の最も高度な動力付き義手でも、Sullivan氏のユニットで採用されたような脳から手へ直接伝達する技術を用いたものはない。さらに、単純な動作でも使用者が学習し直さなくてはならない。例えば、手を失った人は、二頭筋か三頭筋を使って、動力義手の動作を制御する。その上、このような義手は素早い連続動作ができない。代わりに使用者は、順次、筋肉を収縮させて、例えば、手を伸ばしながら同時に回すというような動きをしなくてはならない。 「腕の回路を引き直して、二頭筋で手を制御するようにすると、使用者には大幅な再学習が必要となる」とHanson氏は言う。 このような複雑な神経回路の再構築プロセスが、少なくとも部分的には、Sullivan氏の新しい腕を開発する動機になった。医用生体工学で博士号を持つ医師のTodd Kuiken博士が最初にこの概念を思いついたのは20年以上前、医学雑誌を読んでいた時のことだった。博士のアイデアは、「神経再支配」と呼ばれる神経線維の成長を利用して、義手のための追加の制御信号を取り出そうというものだった。この方法では、神経の通った腕がすでに切断されていても、義手は現存の神経を活用することができるのだ。 この概念は簡単で美しい。しかし、Kuiken博士は長年の研究を通じて、神経を人工器官に直接接続するのは非現実的だということを知った。人間の神経系の信号はあまりにも弱く、このような装置を制御できないことを博士は発見したのである。この問題を解決するために、Kuiken博士は神経を装置ではなく、使用可能な筋肉帯に接続することにした。その筋肉帯が神経からの微弱信号を増幅するための増幅器として働くことになる。 誰でも分かるように、Kuiken博士の方法は医学史上でも独創的なものであり、近年の義肢の歴史で空前の可能性を開くものだ。今回、博士は神経再支配の仕組みに筋電センサー技術と「デジタル四肢」と呼ばれる技術を組み合わせた。その結果として、Sullivan氏はこれまで不可能だったようなことを成し遂げることができた。 「この腕を使って、Jesse氏は自分の野球帽を脱いで、かぶり直すこともできる」とKuiken博士は言う。博士は、Rehabilitation Institute of Chicagoの肢切断患者プログラムの責任者であり、副所長でもある。「Jesse氏は背伸びをして食器棚から物を取ったり、ドアノブをつかんで、回すこともできる」(Kuiken博士)。 その上、Sullivan氏はつかんで回すというような複雑な動作を、単に思い浮かべただけで実行することができるのである。彼の意識の思考は脳を出て、神経を通り、デジタル式義手に入り、義手がそれを解釈し実行している。 信じられないことに、Sullivan氏は感覚も回復し始めている。「彼の胸を触ると、彼はそれを義手で感じる」とKuiken博士は言う。「最終的にこれが突破口となり、彼に真の感覚フィードバックを与えている。彼が握り締めている物を感じることができるようにするために研究を進めている」(Kuiken博士)。
思考に反応するモーター このような成果を達成するために、Kuiken博士と世界中の研究者は、長い根気の要る仕事を続けてきた。また、研究者だけではなく、Liberating Technologies社などのサプライヤも協力してきた。Sullivan氏の最新版の義手は、2005年2月にあつらえたもので、モーター動作のひじ、肩、手首、上腕、および手から成る。 このシステムは合計6台のモーターを用いている。Liberating Technologies社製のひじにはブラシレス直流モーターが1台、中国Keshing社製の義手に2台、独Otto Bock Healthcare社製の手首回旋装置に1台、ノースウェスタン大学製の上腕回旋装置にブラシ型モーターが1台、スコットランドのストラスクライド大学のエンジニアによって設計された人工肩関節に1台使われている。 これらのモーターはすべて、Sullivan氏の思考に直接反応する。この装置は、Sullivan氏の意思によって動き始める。例えば、同氏が手を閉じようと考えた場合、その命令は彼の脳から低電圧電流の形で神経を通り、胸部の筋肉帯に伝わる。この胸の筋肉がSullivan氏にとって重要なカギである。前回の手術で、彼の切断された手や腕の神経が再び取り付けられて、つまり、神経再支配させている場所だからだ。 Sullivan氏の手の神経の一部は損なわれていないため、この“手を閉じよ”という命令を胸部筋肉に伝えることができる。こうして胸部筋肉は収縮し、Sullivan氏の皮膚上の筋電センサーがこの収縮を検知する(筋肉収縮が電界を放射することを利用している)。センサーは信号を増幅器に送り、同氏の義手「Boston Digital Arm」に設置したデジタル・シグナル・プロセッサー(DSP)がその増幅された信号を受ける。このDSPがその信号を処理して、手のモーターに命令を送り、モーターが手を閉じる。 これらすべての事が、一瞬の間に起きる。エンジニアにとっての課題は、人体の中の自然の伝達速度とほぼ同等の速度で信号を伝達させ続けることである。Sullivan氏の思考と腕の動きの間に、目立った時間差があってはならないからだ。このために、信号は筋電センサーから腕内部の直径4.4cm(1.75インチ)の相互接続ボードに送られ、そこを通って差動増幅器に伝えられ、増幅されてからDSPに達する。このDSPは20 MHz動作で、一つあるいは複数の信号を同時に処理し、該当するモーターに命令を送る。 すべての動作において、腕の反応には速さだけではなく、正確さも必要である。Sullivan氏が力強く動かしたい場合、この人工の腕はそれに応じた反応をしなければならない。 「その反応には線形性が必要だ」とRichard Weir氏は言う。同氏は米Jesse Brown VA Medical Centerのリサーチサイエンティストで、ノースウェスタン大学医用生体工学科の教授であり、義手の上腕回旋装置の設計者でもある。「筋肉の収縮が強いほど、大きな信号を生成し、モーターを速く動かす」(Weir氏)。
神経信号を解釈する しかし、人体の信号を理解するのはエンジニアにとって最も手ごわい課題である。このためにはDSPは速くて高性能でなければならない。また、搭載されたソフトウエアは、どのモーターを、どの方向に、どれだけ速く回すかを判断しなくてはならない。 このハードウエアの課題に対応するために、Liberating Technologies社はTexas Instruments(TI)社のC2000 DSPを採用した。従来のマイクロコントローラではなく、DSPを採用したのは、DSPが高い演算能力を持っているためである。「この事例でDSPは、主に制御できるモーターの台数、およびパッケージングと集積度の面で利点をもたらす」とTI社のC2000ビジネス・ディベロップメント・マネジャーのChris Clearman氏は言う。 しかし、判断を下すのはC2000上で走るソフトウエアが担当した。どのモーターを動かすかを決めることが、判断の中で最も単純なものだっただろう。各モーターにはそれのみに対応する筋肉があるからだ。Boston Digital Arm内部にある51mm×152mm(2×6インチ)のプリント基板には6台のモーターを駆動するための回路が組み込まれている。各駆動回路は、各筋肉帯に接続されている。例えば、一つの胸部筋肉帯は手のひらを返す動作を命令し、ほかの筋肉帯は手を握る動作を命令する。 しかし、各モーターをどの方向にどの程度の速度で回転させるかを決めるのは、かなり面倒な課題である。このために、ニューブランズウィック大学のエンジニアは、Kuiken博士と共同でパターン認識アルゴリズムを導入した。このアルゴリズムは皮膚表面のEMG(筋電図)センサーからの入力信号を“観察”する。 「EMG信号は、工学設計で扱う一般的な信号と比べると、はるかにランダム性が大きい」とニューブランズウィック大学のEnglehart氏は言う。「このため測定が非常に困難になる」(Englehart氏)。 とはいうものの、エンジニアたちはこの信号を解釈する信頼性の高い方法を見つけ出した。Englehart氏のソフトウエアは、Sullivan氏の筋肉があらかじめ定めた動作をしている間に生成する信号パターンを観察し、それを学習することで、EMG信号を解釈する。 「Sullivan氏がひじ、手首、または手を動かそうとするときに、このシステムは筋肉の動きを観察し、神経回路網を用いて、それらの動きから学習する」とEnglehart氏は言う。 このパターンと、本当の動作と電気雑音とを区別する能力に基づいて、このシステムは信号の振幅からモーターの駆動力を決定する。また、25種類の腕の動作の中でどの動作が要求されているのかを、およそ96%の確度で判断する、とEnglehart氏は言う。種々の信号特性(特に周波数)からより多くの情報を引き出し、それを用いて、最終的にはより複雑な腕の動作を実現したい、と研究者たちは考えている。 「ここには大量のデータがあり、これらすべてを区別する方法を探しているところだ」とKuiken博士は言う。「最終的にはこれを用いて、Jesse氏が望んでいる手の握り方、つまり、軽くつまむのか、力を込めて握りしめるのか、カギをつかむのかなどを判断できるようにしたい」(Kuiken博士)。
構想の拡大 今のところ、Sullivan氏の腕には、単純だという利点がある。装置を作動させるためのボタンを押す必要もないし、手の動作に無関係な隣接する筋肉を締める必要もない。 「この腕には二つの利点がある」とKuiken博士は言う。「制御情報が豊富で、使用者が直感的に使える」(Kuiken博士)。 現段階でKuiken博士は、Jesse Sullivan氏の義手にさらに機能を追加しようとしている。Sullivan氏の触覚を強化することと、指を巧妙に動かせようにすることを博士は望んでいる。Sullivan氏の胸部筋肉の神経再支配した領域の皮膚で、感覚が発達していることにKuiken博士は注目している。博士は、これを利用して手と腕の感覚を増やしたいと考えている。さらに、将来、手の部分の自由度を増やし、くねらせるような指を作れる日が来る、と博士は考えている。 「指を制御できるような方向に、技術は着実に進んでいる」と博士は言う。 「今やルーク・スカイウォーカーと同じである。違うのは、Jesse氏は微妙な動きができないだけだ」とHanson氏は言う。「しかし、いつの日かそれも可能になる。その日が来るのもそれほど遠くはない」(Hanson氏)。
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