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MAY 2006
ハイブリッド車の未来
Ford Escape Hybridでは、330Vの電源系が2.5 kWの付帯機器用電力を供給する。これは現状の12V車両の60%増である。

300Vから500Vそして650Vにまで達する自動車の電源系統は、燃費や信頼性を高め、さまざまな新しい機能を消費者にもたらす。

著者_CHARLES J. MURRAY
シニアテクニカルエディター

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  激しい雷雨のため家が停電して、そのままでは9kg(20ポンド)の牛乳と卵と肉が冷蔵庫の中で腐ってしまう。そんなときに何ができるだろう。
 クルマの中に交流110Vの電源があれば、食料を持ち出し、可搬式の冷蔵庫をクルマに接続して、窮地を脱することができる。実際このようなことが現実的になる日は近づいている。高電圧のハイブリッド車が市場に現れたからだ。300V、400V、500Vそして600Vにまで達する電源系を持つ新種のハイブリッド車では、従来の車両と比較すると、付帯機器用の電源容量もはるかに大きくなり、さまざまな新機能に対応できるようになる。いくつかの車種では搭載電源容量が非常に大きくなるため、空調を動かしながら仮眠を取るトラック運転手は、エンジンをアイドリングせずに済む。SUV(スポーツ多目的車)にも電動パワーステアリングが可能になる。作業員は電動工具を作動させ、アウトドア派はヒーターを差し込むことができる。自動車メーカーも予熱した触媒などの機能を追加できるようになり、起動時に常に発生する排気汚染を低減することができる。さらには、ステア・バイ・ワイヤーやブレーキ・バイ・ワイヤーなどの次世代技術の基礎となる。
 「車両に高電圧の電源系があれば、いろいろな可能性が生まれてくる。これは、ハイブリッド・パワートレインが市場にもたらすメリットの一つである」と A. J. Lasley氏は言う。同氏は米Delphi社の高度パワートレインおよびパワーエレクトロニクス分野のチーフ・エンジニアである。
 実際、米Ford Motor社(フォード)のEscape Hybridはすでに330Vの電源系を実現している。数年前の電源42V化の提案のはるか先を行き、現状の12V車両からみると桁違いの差である。同様にトヨタのPriusは500Vの電源系で動作し、もうすぐ発売されるLexus hybrid SUVでは650Vになると言う。多くの自動車エンジニアがこれらの高電圧電源系を採用する理由は単純だ。それはパワーである。Escapeの330V電源によって、フォードのエンジニアは同社のハイブリッド車で付帯機器の電源容量2.5kWを実現した。これは従来型の車両で得られる値の60%増に相当する。しかし、この程度の容量はこれから市場に出るもののほんの一部に過ぎないかもしれない。エンジニアの間では、8kWから10kW、さらには数年内には20kWまで行くという声も聞かれる。
 「未来の車両では、付帯機器用に割り当てられる電源は8〜10kWまで増大するだろう」とTom Watson氏は言う。同氏はフォードのハイブリッド推進システム担当マネジャーである。「現在構築しているデザインには何年も先まで通用することが要求されている。このため、十分大きな電源を用意して、誰も考えていなかったような消費者向けの機能を実現するようにしたい」(Tom Watson氏)。


高電圧のおかげで、自動車メーカーは、大電力が必要な電動パワーステアリングなどのサブシステムを組み込むことができるようになった。
(画像提供:Delphi社)

将来の電気的構成によって予熱した触媒を装備するのが簡単になることを自動車メーカーは期待している。予熱した触媒は、自動車排気ガスによる汚染を劇的に減らすことができる。
(写真提供:Siemens VDO Automotive社)

高電圧の危険性を考慮に入れる
ハイブリッド車の電源は緊急作業者に危害をおよぼすか

 可能性としてはその危険性はある。しかし、メーカーの言い分によると、エアバッグセンサーがあるから心配する必要はないという。重大事故の後に乗客を救い出そうとしている救助隊員も、心配することはないそうだ。
 「現在の自動車では、衝突したときには、すべての機器がそれを知ることになる」とMike Gauthier氏は説明する。同氏はSiemens VDO社の北米地区コーポレート・テクノロジー担当ディレクターである。「ただカットオフ・スイッチを装備するだけでよい。そうすれば事故が起こってエアバッグが膨張したときに、車両が主電源ラインを切ることができる」(Gauthier氏)。
 また、低電圧配線は、衝突の間、選択して生かしておくこともできる、とGauthier氏は言う。このため、車載のテレマティクスシステムが緊急サービスへ事故を報告したり、ドアロックを開放できるようにする。
 それでも心配な救助隊員のために、ハイブリッド車のメーカーはガイドを作成し、バッテリーや切断スイッチ、回路遮断器の位置を明示している。多くの会社は消防署にハイブリッド車を持ち込み、技術教育の機会を提供している。


42Vを超えて

 消費者向けの新機能が増える傾向については、すべての自動車エンジニアが同意している訳ではない。しかし、電源容量が増えることで、強く求められていた余裕が生まれるということを大多数のエンジニアは認めている。現状の車両では、ぎりぎり1.5kWの電源しか得られない。このため、新しい機能を加えようとしても、壁にぶつかってしまうのがエンジニアの不満の種だった。ここで新しい機能とは、シート暖房や電動パワーステアリング、電気式エアコン、触媒の予熱などである。
 このため1999年には、多くの自動車関連団体が42V電源系のアイデアを支持した。当時は、電源を消費するドライブ・バイ・ワイヤー技術が形を見せ始めたころであり、電源容量の割り当てへの不安が高まった。このため、42V電源系が緊急に必要だと信じるエンジニアが多かったのである。しかし、最終的にはこの電源系に対する取り組みの多くが消え去ってしまった。
 多くの自動車エンジニアによると、42V系の失敗の主な原因はそのコストにあるという。すべての車両を42Vに移行するにはコストがかかり過ぎる。それを避け、暫定的な措置で切り抜けるエンジニアが多かった。コントローラの性能を上げる、オルタネータの効率を高めるなどの低コストの手段によって、問題を解決したのだ。
 「これはエンジニアリングにとっては自然な現象である。新しい技術の脅威ほど古い技術の革新を促すものはない」とWatson氏は主張する。
 しかしハイブリッドでは事情が違う。ハイブリッド車の開発は、燃費および排気ガスの問題に対する懸念から発展したものである。このため、ハイブリッド車を設計する自動車メーカーのエンジニアは、ゼロからスタートすることができ、車両開発目標として電源を最大限に活用することに焦点を置くことができた。多くの場合、新規のハイブリッド車には、複雑な制御器や電源ボード、インバータおよび冷却システムに加えて、大型の駆動モーター、洗練された回生ブレーキシステムが採用されている。
 「現在の動向を見ると、自動車メーカーは超大型の電動機械へと向かっている」とMike Gauthier氏は言う。同氏は、独Siemens VDO Automotive社の北米地区コーポレート・テクノロジー担当ディレクターである。
 その結果、ハイブリッドシステムのメーカーは高電圧電源系を搭載する車両を展開している。フォードのEscapeとMarinerはすでに330V系を装備した。さらに、いくつかの自動車メーカーは500〜650Vの範囲の電源系を搭載する車両を開発している。2005年9月のフランクフルト自動車ショーで、Siemens VDO社が発表したモジュール方式のハイブリッド駆動装置は、2008年までに“フル・ハイブリッド車の出力電力が75kWになることを想定したもの”となっている。


TRW社の油圧式Slip Control Boostはマスターシリンダーと連動し、ハイブリッド車の回生ブレーキと共同動作するユニットである。このユニットは12V電源系で作動する。


新機能導入の余地

 このような電源系が得られるようになると、自動車メーカーと部品メーカーは、いままでは導入できなかったような、大容量電源を要する機能を装備しようと考え始めているだろう。そのなかで最も大きな機能は、電動パワーステアリングである。現状の車種にも電動ステアリングを付けたいと考えている自動車メーカーは多い。しかし現実には、大型車に関しては不可能に近い。特にSUV(スポーツ多目的車)では、すでに1.5kWの電力供給量を超えるぎりぎりのところで、一進一退を繰り返している状況である。
 「現在の電動パワーステアリングの制限事項の一つに、大型車やトラックに付けることができないということがある」とRobert Schumacher氏は言う。同氏は米Delphi社の高度製品開発およびビジネス戦略担当のディレクターである。「多くの場合、導入すると電気システムがピーク時に過負荷を受けてしまう」(Robert Schumacher氏)。
 しかし将来、電力供給量が10kWを超えるようになれば、ハイブリッド車の設計者は、電動パワーステアリングが電力割り当てに与える影響を気にしなくてもよくなる。専門家によると、このような場合、高電圧の車両ではさまざまな機器を同時に駆動出来るという。ステアリング用のモーターを、ブレーキライトや電熱シート、リアーデフロスター、パワーウィンドウ用モーターと同時に駆動しても、過負荷を気にしなくてもよい(後出の囲み記事参照)。これとは逆に、現在の高性能な車両用コントローラでは、これらの機能が同時に動作することを防止するのが重要な役目である。
 電源容量の拡大により、そのほかの新しい機能の導入も可能になる、と多くの自動車エンジニアは言っている。例えば、予熱した触媒により点火直後の排気ガスの汚染を削減できる。車内の予備電源コンセントに、工具や小型電子機器を差して使うことが出来る。さまざまなバルブ作動システムにより、エンジン性能を高められる。さらに、現在自動車業界で流行し始めている電気式エアコンも導入できるようになる。
 高電圧の電源は長距離トラックにも有利である。特に、仮眠スペースのあるトラックだ。運転手は仮眠中に電源供給のためにエンジンをアイドリングさせずにヒーターやエアコンを動かせるようになる。
 「アイドリングは非常に非効率的で、多量の汚染を生む」とSchumacher氏は言う。「電源の豊富なハイブリッド車さえあれば、エアコンやヒーターを動かしても大気汚染は生じないし、ガソリンを浪費することもない」(Schumacher氏)。
 また、高電圧のハイブリッド車は、自動車メーカーにとって信頼性を高める良い機会になる、と多くの自動車エンジニアは言う。フォードのエンジニアによると、DC/DCコンバータを使って、330Vの電源系を13.2Vに下げることで、照明系の配線や電球の信頼性を改善できたという。「自動車のヘッドライトなどの電球は、安定した電圧を受け取ることになる」とWatson氏は言う。「電球を焼いたり、寿命を縮めたりしがちな電圧スパイクがなくなる」(Watson氏)。
 そのうえ、高電圧電源系は全電化型のベルトレス・エンジンの基礎になる、と多くのエンジニアは考えている。この種のエンジンでは水や燃料、オイルおよびステアリングのためのすべてのポンプと、エアコンのコンプレッサーが電気式になる。その結果、従来の曲がりくねったベルトが不要になり、ベルトによる損失もなくなる。
 「全電化型のシステムと高電圧バスを導入すれば、動力を必要な時だけ使うようになる」とSchumacher氏は言う。「エアコンの動力はコンプレッサーを回すときだけ使う。ステアリングの動力は、ステアリングホイールを回すときだけ使えばいい」(Schumacher氏)。


フォードのEscapeは110Vのコンセントを備え、消費者はAC動作の機器を差し込むことができる。


ほかの選択肢も評価する

 このようなインフラストラクチャーへの移行はゆっくり進み、新機能は当初は高価なものになる、と多くの自動車エンジニアは言う。
 「もちろん、ハイブリッド車の駆動用モーターと高い電圧によって、付帯機器用の電力を得ることはできる」とBob Rivard氏は指摘する。同氏は独Bosch Automotive社、先端技術およびプロダクトマーケティング担当のバイスプレジデントである。「しかし、短期的には、電源を制限なしで自由に使えるようになる訳ではない。やはり、既存システムを最適化するためのコストの問題や圧力もある」(Rivard氏)。
 実際のところ、米TRW Automotive社のように、従来の12V電源系用の新機能を展開する会社もある。例えば、同社の電動式油圧ステアリングやSlip Control Boost、アクティブ油圧ブレーキは、12Vの電源系を狙ったものである。すべて、ハイブリッド車のステアリングと回生ブレーキシステムを念頭に置いて開発されたものである。これが示唆するのは、高電圧電源系は必要ない、少なくとも現段階ではまだ必要ないということである。
 「12Vのハイブリッドシステムができないという理由はない」とPhil Cunningham氏は言う。同氏はTRW Automotive社のシャーシ用製品計画担当のディレクターである。
 そのうえ、以前はドライブ・バイ・ワイヤー・システムが高電圧電気系統を進める大きな理由だったが、今ではこのシステムは自動車業界内で以前のような大きな支持は集めていないと言うエンジニアもいる。
 「ステア・バイ・ワイヤーやブレーキ・バイ・ワイヤーのための高電圧は得られるようになった。しかし、自動車業界はいまだにこの技術のコスト上での損得を議論している段階である」とBosch社のRivard氏は指摘する。「この技術はいまだに最良の解決策だとは考えられていない」(Rivard氏)。
 しかし、アジアの自動車メーカーと米国のフォードが支持する長期的な見通しでは、より高電圧な電源系と完全電化された付帯機器が予見されている。これには、燃料、水およびオイルのポンプや、空調システム、ステアリングシステムなどの機器すべてが含まれる。この枠組みでは電球、スイッチおよび配線の信頼性が高まり、電流レベルは一定になり、電圧降下もかなり小さくなる、と多くのエンジニアは言う。さらに、多くの自動車メーカーによると、大型車やトラックがハイブリッド化されるにつれて、システムの高電圧化が大きな意味を持つという。大型車のハイブリッド化には、大型の駆動モーターが必要になるからだ。
 「低い電圧のハイブリッド車でも、従来の車両に比べて効率は改善する。しかし完全なハイブリッド化に必要な電力を供給することはできない」とフォードのWatson氏は言う。「完全なハイブリッド化には少なくとも200Vは必要である。電気系で選択できる電圧範囲はかなり広く、高電圧ならば求める効率すべてを実現できる。“中途半端な”電圧で、無駄な時間を費やす意味はない」(Watson氏)。


自動車の電力負荷
 現在の従来型自動車は12V電源系でおよそ1.5kWの電力を供給している。大電力を要求する機能を組み合わせて採用するには、この値では不十分である。その結果、電熱シートと電動パワーステアリングなどの機能だけで、多くの車種ではすでに容量の限界ギリギリに達してしまう。予熱した触媒や電動バルブトレインなどの機能は、それだけで電力を消費しすぎる。10kWあるいはそれ以上の電力が得られる高電圧の電源系は、この状況を変えることができるだろう。

 

エディターChuck Murrayへの連絡は:charles.murray@reedbusiness.comまで

ウェブ情報源
■ Ford Escape Hybridの詳しい情報は:
http://rbi.ims.ca/4915-556
■ ハイブリッド車に応用されうる交流誘導モーターについてはこちら:
http://rbi.ims.ca/4915-557
■ トヨタはハイブリッド車の需要に応えるために奮闘中:
http://rbi.ims.ca/4915-558
■ ハイブリッド車用のCVT(無段変速機)に関してはこちら:
http://rbi.ims.ca/4915-559
■ エディターによるトヨタ・プリウスのレビューはこちら:
http://rbi.ims.ca/4915-560



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