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JULY 2006
RFID: 5セントタグ実現の彼方に
Impinj社のMonzaチップの寸法はわずか0.5×0.5mmである。コーナー部の4個の白いパッドはアンテナ接続用。

RFIDタグ(無線ICタグ)は1個5セントの価格目標にはまだ達していないが、急激な技術革新によりコスト削減と性能向上が進んでいる。

著者_Charles J. Murray(シニア・テクニカル・エディター)

  ここ10年ほど、『5セントタグ』実現という目標がはるかかなたに見え隠れしている。その実現をCIO(IT担当役員)たちは辛抱強く待ちつづけ、専門家たちは何兆個もの日用品への応用を予測する。欧州中央銀行が、価格5セントの無線周波数識別タグ(RFIDタグ)を紙幣の繊維のなかに刷り込むという噂もある。いったんタグ単価が5セントに達すると、RFIDの応用範囲は無限に広がるように見える。
 他方で、RFIDには5セントという値段以外にも別の値打ちがあると評価するメーカーも多い。
 「5セントという、出所の不確かな価格ポイントに関する発言は、ここ何年も続いている」とMike Liard氏は言う。同氏はVenture Development社のRFID担当ディレクタである。「可能か、と問われれば、答えはYESである。しかし、想定されているタグとは違ったものになるかもしれない」(Liard氏)。
 実際のところ、RFIDのICチップメーカー、およびICチップ、アンテナと基板を含んだ「インレイ」と呼ばれる部品のメーカーは、このことを承知している。だからこそ、先を争って5セントの値札をつけようなどとはしないのだ。その代わりに、2000年以降、年率5〜10%で値下げを続行し、同時に技術改良を進めている。その結果、5セントという単価目標には届かなくても、10年前には想像もしなかったような分野でタグの利用が始まっている。
 例えば、ラスベガスのマッカラン国際空港では、デュアルダイポールアンテナ装備の「荷物タグ」が手荷物に付けられ、カバンがどのような向きでコンベアベルトに乗せられても、荷物搬送システムのRFIDリーダーが、確実にすべてのカバンと交信できるようになっている。このようなデュアルアンテナ・タグは5セントの目標点には達していない。しかし、単価およそ20セントのこのタグが提供する能力は、現在の5セントタグでは不可能である。同様に、小売店は特別なアンテナのついたタグを使って、積み上げられた衣服の山の中に埋もれていても、RFIDリーダーとタグが交信できるようにしている。この例でも、安価なタグではこのような芸当は不可能だろう。
 要するに、RFIDメーカーは価格を下げ、技術改良を進めつつ、独自の隙間市場を創出してきたのである。RFIDの利用が拡大している分野は、パレット、ダンボール箱、衣服、手荷物、DVDケース、薬品ビン、図書館の蔵書などである。専門家の予測によると、将来は口紅からコーンフレークの箱まで、低価格の日用品への使用が増大するという。当分の間、バーコードを置き換えることにはならないが、RFIDには見通し外認識能力という特長がある。すなわち、個々に手にとらなくても、居場所の情報を収集することができるという能力である。この結果、窃盗や偽造を阻止することができる。
 「RFIDは労働集約型ではない」とSanjay Sarma氏は指摘する。同氏は米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の機械工学助教授であり、MITのオートIDセンターの研究担当ディレクタである。「もしRFIDで得られるのと同等の情報をバーコードで得ようとしたら、人海戦術ですべての製品をスキャンするしかない」(Sarma氏)。


Alien社の低コストタグSquiggle:Fluidic Self-Assemblyと呼ばれる方法を用い、Alien社は毎時200万個のチップを実装できると言う。

パレットの追跡は、伝統的にRFID市場の定番だった。一般消費者向けRFIDを狙ったコスト低減は、この分野にも利益をもたらす。
写真提供:Philips Semiconductors社


相変わらずコストが鍵

  5セントタグの課題は消えたわけではない。単価10〜20セントかそれ以上では、RFIDはバーコードよりかなり高価になる。このため、5セントへの要求は続く。
 「業界内の5セントを目標においた活動は、まったく健全な方向にある」とSarma氏は言う。「グッドニュースは、RFIDが研究段階を超えて、開発段階に入ったことだ。多数の会社が5セントの目標を目指している」。
 5セントが究極の目標であるかどうかは別にして、ICチップとインレイのメーカーはコスト低減を目指している。たとえば、チップ設計会社のImpinj社は新規の半導体手法を用いて、低コストのCMOSテクノロジーをRFIDデバイスに適用し、コスト削減を進めている。従来のRFIDチップメーカーは、フォトマスクとプロセスステップを追加して、内蔵の不揮発性EEPROMあるいはフラッシュメモリーを、RFIDチップ上に形成していた。これに対して、Impinj社のエンジニアは「セルフ・アダプティブ・シリコン」という手法を用いる。この手法によって、メモリービットを記憶できるゲートを持つ特殊なトランジスタを生成する。このようなトランジスタを作ることにより、不揮発性メモリーを作成するとき、EEPROMあるいはフラッシュメモリー製造に求められる追加的なフォトマスクとプロセスステップが不要になる。
 「セルフ・アダプティブ・シリコン技術を用いれば、一番単純なCMOSプロセスを使って不揮発性メモリーを作ることができる」とImpinj社のマーケティング担当バイスプレジデントDimitri Desmons氏は言う。

Impinj社の「プロペラ型」インレイは、異なる国の異なるUHF周波数でも、チップやアンテナを変えずに使えるよう設計されている。

 同社のエンジニアによれば、セルフ・アダプティブ技術にはチップ製造コストを削減できる可能性があるという。コスト削減が実現するのは、このような技術が大量生産技術と結びついたときである。そしてこの生産技術を米Alien Technology社が開発した。
 Alien社は、Fluidic Self-Assembly(FSA)という技術を採用して、インレイのコストを単価わずか12.9セントまで削減したと発表した。同アセンブリー技術を独自で開発した同社の創設者は、鋼鉄製の球を操って小さな溝に落とすという子供のゲームで遊んでいてヒントを得た。同技術によると、1時間で200万個のICチップをRFIDタグに実装できるという。既存の方法では1時間あたり1万個だった。同社によると、秘密はチップを流し込むことにあるという。流体のなかに微小な半導体デバイスを浮遊させ、多数の穴の上を流すと、デバイスは穴の中に落ちて自己整合的に配置される。この自己整合配置技術が、生産量の増加ともあいまって、Alien社がタグのコストを以前の単価23セントから50%近く削減できた要因である。
 別の方向からコストの課題に取り組んでいるメーカーもある。たとえば米Symbol Technologies社は、タグアンテナの材質を銀からアルミニウムに変更するなど、タグのコスト削減のためにさまざまな手段をとっている。高性能RFIDシステムのメーカーである同社は、導電性の高い銀から低いアルミニウムに移行するために、チップ上にチャージポンプを持つ構造を開発した。チャージポンプは、アンテナで受信する無線信号の連続性と強度を増大させる。

Symbol Technologies社の手荷物タグは、デュアルダイポールアンテナを用い、カバンが空港のコンベアベルト上を動いている最中に読み取ることができる。

 Symbol社が採用したマッカラン国際空港の手荷物タグ用のアンテナは、2つのアンテナの指向性を90度ずらして一体成形している。このおかげで、コンベア−ベルトの上にカバンがどのように放り出されていても、RFIDタグは空港のRFIDリーダーと交信できることが、実質上保証されている。
 「ひとつのアンテナで作動するような低コストの解を求めるならば、カバンを一定の方向に整列させ、一定の方向でリーダー付近を通過させなければならない」とAlan McNabb氏は言う。同氏は、Symbol社のRFIDタグの製品マネジメント担当シニアディレクタである。「我々のタグを用いればカバンの向きは気にしなくて良い」(McNabb氏)。


採用が進まない原因
RFIDの採用は常に予測より遅れる傾向が見られるのはなぜだろうか。専門家の意見によると、理由はいろいろある。
・メリットが潜在的な使用者になかなか理解されない。
・プロセスの変更に時間がかかる。従事する人を再訓練する必要がある場合や、機械をプログラミングしなおす必要がある場合は、特に時間を要する。
・RFIDのインフラストラクチャーを開発するには大規模な資本の投資が必要である。


「モノのインターネット」形成

  このようなテクノロジーがRFID分野に入って来ている。たとえばSymbol社は同じようなテクノロジーを薬ビンに導入し、偽造品を警戒する製薬業界の要求に応えている。
 「製薬業界にとって大きな課題のひとつが、市場に侵入してくる偽造薬品の問題である」とPhilips Semiconductors社のRFID担当マーケティングマネジャーのDirk Morgenroth氏は言う。「この業界は、RFID利活用に向けて積極的に発言している」。
 Philips社、Texas Instruments社、Inpinj社、Alien社などを含むRFIDメーカーはRFID製品をさまざまな分野に展開している。ファッション業界のシャツ、パンツ、セーターなどや、図書館の蔵書、DVDやCDのケースなどである。
 しかし、RFID業界の最大の成功例はヨーロッパで生まれそうである。欧州中央銀行が、銀行紙幣の繊維の中にRFIDを刷り込む計画をメーカーと共同で進めている、とうわさされている。このテクノロジーは、おそらく高額紙幣に導入されることだろう。これにより、通貨が自分の履歴を運ぶことが可能になる。したがって、誘拐犯が「しるしのついていない紙幣」を要求することが難しくなるだろう。また、これにより警察当局が、非合法取引での資金の流れを追跡することも可能になる。 
 Wired誌やEE Times誌で最初に報道されたこのプロジェクトは、欧州の2005年の通貨から実施されるとのことだった。日立製作所は、世界最小のRFIDチップ(大きさはわずか0.4 × 0.4mm × 7.5μm)の開発を2月に発表し、しばしばユーロ通貨と結びつけて報道される。しかし、日立はこのようなプロジェクトに取り組んでいることを否定している。欧州中央銀行の広報担当官がDesign News誌に語ったところによると、「我々はこの件に関して何も言えない。業者に対しても、この件に関し他言しないとの相互契約を結ぶよう要求している」とのことであった。

日立のμ-Chipは世界最小最薄と言われている。厚さわずか7.5μm。比べると塩の粒も巨大に見える。

 たとえ、このようなプロジェクトが実を結ばなくても、RFIDはいずれ、「モノのインターネット」と研究者が呼ぶ計画を支える基幹技術になるだろうと、専門家は確信している。「モノのインターネット」では、大小さまざまな、ほぼあらゆる物がウェブを通じて繋がる。この計画は、すでにハードウエアとソフトウエア・プロトコルで記述され、製品のすべての情報をXML(eXtensible Markup Language、拡張可能なマーク付け言語)に基づいたコードで書くよう要求している。このコードは各アイテムに対応した一種のウェブページを生成し、RFIDを通してインターネットサーバーに接続する。したがって、すべての製品はどこにあっても、即時に認識される。Coca-Cola社、International Paper社、Johnson & Johnson社、Kimberly-Clark社、 Pepsi社、Procter & Gamble社などからなる大企業の幅広い連合体が、MITのオートIDセンターを通じてこの計画を支持している。
 低コストがこのような計画の鍵であることは間違いない。しかし研究者たちはこの件に関してもすでに織り込み済みだ。研究者たちは、最終的には日用品にRFIDが組み込まれるようになるという。接着剤のついたタグではなく、ダンボール箱の波板の内部に一体化されるようになる。この分野での取り組みが、RFIDのコスト低減の鍵になるだろうと見ている。なぜならば、タグの一部分が不要になるからである。現在のように事後にタグをつけるのではなく、はじめからダンボール箱の製造工程にRFIDテクノロジーを取り込み、コスト削減を実現するのだ。
 「このようなRFIDテクノロジーは、将来的にも長い期間バーコードと共存してゆく」とMITのSarma氏は言う。「しかしRFIDによれば、バーコードでは得られない情報を得ることができる。『この品は売り場に出されたのだろうか、この肉は冷蔵庫に十分な時間入れられていたのか』などの疑問への回答をバーコードで知ることはできない」。
 Sarma氏は、このような技術が急速に普及するのは生産量が「臨界点」に達したときであると言う。この点に達すると、十分コストが低くなったのだから、RFIDを日用品に使用しようという動機が生れる。小売業者(特にWal-Mart社)がRFIDを強力に推進している現状を見れば、この概念は十分現実的であると専門家は言う。
 「そこで問題は臨界点だ」とSarma氏は言う。「いつになったら、『ダンボールの波板のなかにタグを入れようと思う』と皆が言いだすようになるだろうか。おそらく、2007年は、このような現象が見られるだろう」


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シニア・テクニカル・エディターのChuck Murrayの連絡先は:charles.murray@reedbusiness.com

 
 



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