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2006年12月

童夢
スピードと夢追うエンジニアリング集団


レーシングカー開発で独自の道を走る童夢グループ。今回米原にある同社の開発設計製造拠点を訪問し、設計開発、風洞実験設備やカーボンコンポジット部品の成型加工の現場を見学した。最速レーシングカーを求めて疾走する夢追いエンジニアリング集団、童夢グループの事業拠点を、童夢開発部長で童夢カーボンマジック社長の奥明栄氏の話を中心に紹介する。

著者:甲斐真一郎

 

奥開発部長

 レーシングカー製造の「童夢」は1975年の設立。同社はもともと京都にあったが、2006年1月にエンジニアリング設計、スタイリング設計とシャーシ開発、実走行モデルの開発・製造拠点を米原に移設するとともに、同地に空力風洞実験設備の「風流舎」、静岡にあったカーボンコンポジット製造の「童夢カーボンマジック」を集合させ、現在は『童夢レーシング・ビレッジ』を形成している。
  カーボンマジック事業の急拡大に対応して、昨年はタイのバンコク郊外シラチヤに「童夢コンポジット・タイランド」も設立した。
  童夢グループはこれまで、自社開発車に加え、自動車メーカーから100車種を超える車両の開発・製造を受託してきた実績がある。本社事業の売上げの内訳は、レーシングカー開発が約50%を占め、約25%がモーターショーのコンセプト・カー、電気自動車など自動車メーカーからの委託による車両開発、残り25%を要素技術・実験装置開発とレース活動が二分する。
  06年、童夢レーシングカーの開発には、全日本GT選手権向けチーム・ホンダ・レーシングのHONDA NSX、仏ルマン24時間耐久レースに参加の欧州チーム向けDOME S101、FIAスポーツカー選手権F3に参加のDOME F107の3機種が含まれる。
  童夢開発部長で童夢カーボンマジック社長の奥明栄氏によれば、レーシングカーの速さを決める要素は、エンジンパワー、タイヤ性能(μ)、ウエイト(重量)、ダウンフォース(下向き空力の力)、ドラッグ(空力抵抗)の5つの要素の追求に集約される。「各要素の絶対値に加えて、要素間のバランス取りが難しい」と奥開発部長。エンジンとタイヤ供給を各メーカーから受ける童夢では、開発領域は、ウエイト、ダウンフォース、ドラッグの3要素となり「開発目標は空力性能と軽量高剛性の追求、これに尽きる」(奥開発部長)。
  童夢のレーシングカー開発を技術要素から見ると「空力が半分を占める。残りの半分をコンポジット、ギアボックス、エレクトロニクス、サスペンション、その他の開発が分ける」と、特に空力性能の比重の大きさを強調する。

レーシングカーの空力開発
――風洞実験とCFD

 童夢は空力性能開発に、風洞実験とCFD(流体解析)の2本の開発ツールを備える。その課題を図1に示す。奥開発部長は「まず大きなダウンフォース(L)と小さなドラッグ(D)によって、揚抗比(L/D)を高める。しかしいかに大きなダウンフォースがあっても前後のバランスが悪くては運転しづらい車になるため、適切な空力中心位置を追求する。さらに車が走るとピッチ、ロールなどにより空力中心位置が移動する。その空力特性の変化に対して理想的なバランスの追求が課題になる。以上は車体の外形と絡む課題だが、加えてインテークから入り車体外に出るまでの最適な車体の内部流を追求する課題がある」と語る。

図1 空力開発の課題

 童夢が設計開発し、運営する最大風速60m/secのゲッチンゲン型風洞実験施設。その計測室でのポイントは、計測する車両の床面が樹脂のムービングベルト方式となっており、風の流れと連動して回転するしくみになっていることだ。ベルトが動くことによりタイヤも回転する(図2)。走行中のレーシングカーの先端と地面の間は5mm程度の極めて狭い隙間しかなく、地面が停止した状態では、空気の流れは車体の先端前面で渦巻き、車体下部に流入しづらくなる。そうなると、レーシングカーの周りで起きる空気的現象は、実車とはかけ離れたものになる。

図2 ムービングベルト法

 そこで車体の下にベルトを走らせることで、一様な空気の流速が車体に当たるように、車体の下部へと流れる空気の流れを促進する。実車に近い空力状態の再現にこうして近づく。
  童夢がこの方式を日本で初めて採用したのは約二十年前。その後、このムービングベルトシステムはJR総合技術研究所、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や各自動車メーカーに採用され、納入している。ただし国内で50%スケールのレーシングカー用に空力風洞実験が可能なベルト走行式システムは、「風流舎」にしかない。特にレーシングカー用途として特殊な構造を持たせ、「車体底面の風圧でベルトが吸い上げられようとするのを抑止する技術が組み込まれている」(奥開発部長)という。

オーバーホール中のレーシングマシン

 風洞計測室での空気力計測とモデル制御システム(図3)は、レーシングカーのなかに仕掛けを組み込み、車体にはたらく空気力を測る装置や、「3軸モーションコントロール」、「ライドハイトコントロール」など計測中に車体の傾きや高さを変える装置があり、多様な姿勢での特性を連続的に計測できる。「フロントウィングロードセル」「リアウィングロードセル」「タイヤドラッグロードセル」などは車の特定部位にかかる空気力だけを切り離して計測し、「レーザー式ライドハイトセンサー」は常に地面(ベルト表面)との距離をモニタリングしている。このほか車体の表面に働く圧力を測る「スキャニバルブ」、ラジエータ流量測定の「プロペラ型風速計」などがある。

図3 空気力計測とモデル制御システム

 他方、流体解析(CFD)は風洞実験では見えない流れを可視化できるメリットを持つ。CFDの方が風洞よりも有効な部位としては、フロントウィング、リアウィング、クーリングダクト、コックピットまわり、エアボックスなど。童夢ではこれらの部位に関して、パーツ単体でのCFDにより短時間で優れた形状を予測して候補を絞り込んだうえで、その風洞実験を行なう。
  CFDをフルカーに適用したときの空力の流れの研究も進めているが、奥開発部長は「オープンカーのタイヤが側面にむき出したような形状の車では流れが複雑で、CFDでは風洞測定のレベルには達していない。風洞実験と比較すると流れは読めても絶対値がちょっと怪しい」と評価。ただしCFDは過去5年でかなり信頼性を上げてきており、ワークステーションの処理性能も向上していることから「早ければ3年後くらいにはCFD利用が風洞テストを超える時期が来る」と予測する。ただし「CFDの検証、現象の定義には風洞実験が必要だから、風洞利用はなくならない」とも。

 

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