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モノづくりと人材2007年3月 「作り込む」厳しさこそ強み
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マエダ・テツヤ 67年黒田精工入社。工場長、事業推進部長、事業部長を歴任。91年常務就任以来14年にわたり製造・技術統括として同社の「モノづくり」に携わる。05年現職。 |
黒田精工
前田哲也 社長
ゲージメーカー黒田狭範製作所として1925年に創業した黒田精工は、ゲージ・計測機器から精密金型、工作機械、ツーリング、空気圧機器、ボールねじ・直動関連機器、さらに医療機器、超精密表面形状測定装置へと事業を拡張してきた。モノづくりは、突き詰めるとモノの「作り込み」に至る、と考えている。モノを製造するところから踏み込んで、現場で「作り込み」の違いを出せるところに、日本の製造業の強さがある。
モノを「作り込む」過程ではヒトの果たす役割が大きい。モノの製造と「作り込み」の差は、モノを通して完璧さに迫ろうとするヒトの能力に帰する。だからモノづくりとヒトづくりは同時に進行する。
ゲージはまさに「作り込み」の製品だ。検査器具とは異なって、ゲージは公の標準規格だから、公の規格品を作るという妥協なしの「作り込み」が要求される。誤差が許されないモノづくりがあるとすれば、ゲージの製造がまさにそれだ。ゲージ作りが黒田精工のモノづくり全事業の原点となっている。これに対し検査器具は、検査対象を使用者の目的に応じた精度で測ることができれば足りる。
手動から自動へ「作り込み」を継承
私は機械工学科を卒業後、40年前に黒田精工に入社して2年目に、最初に任された仕事が手動ホーニング加工の自動化だった。ホーニング加工法は円筒内面の仕上げ法の一種で、砥石をつけた回転工具を円筒内に挿入し加工する。当時の手動ホーニングは両手で筒を支え、摺りながら内面を仕上げていく非常に過酷な作業だった。微妙な両手の感触に頼りながら、ミクロンオーダーの加工精度が要求された。時に砥石との摩擦抵抗が大き過ぎると、ワーク(加工物)が掌の中で激しく回転する。すると、加工処理した鉄の表面で掌がズタズタに切れてしまう。ウエス(布)を巻いて支持すれば掌は安全だが、微妙な感覚が失われる。このため、作業員はみな素手でワークを持って、掌を切り傷だらけにしながら、ミクロンオーダーの加工を仕上げていた。
その自動化は、先輩のメカ設計のベテランが皆尻込みしたプロジェクトだったが、私にお鉢が回ってきたときに引き受けたのは、ただ怖いもの知らずだったからとしか言いようがない。今の金額にすると4千万〜5千万円の予算がつき、設計と組立ての3人チームで取り組み始めた。私はまず加工方法を肌身で修得する必要を感じ、手動ホーニングのオペレータと並んで実作業を開始した。私の掌もズタズタに切れた。しかし段々と自動化の困難さが分かってくると開発は行き詰まった。
悩みの中にあったとき、当時の事業部長から晩飯に誘われた。指定された料理店に行くと、手動ホーニングのオペレータ4、5人が待っていた。「前田、一人ひとりと握手してみろ」と事業部長に言われるまま、彼らの手を握って驚いた。ワークの回転に耐え続けた掌が、どれも岩のようにゴツゴツだった。「お前がやっている仕事は、こういう過酷な仕事からオペレータを解放する仕事だ。簡単に音を上げるな」と言われた。完成まで3年かかったが、開発した機械はその後30年間現役で働き続けた。
またサブミクロン精度のブロックゲージを作る長尺ラップのラッピング加工を長年続けたオペレータの掌は、加工時に鉄に熱膨張を生じさせないように夏でもひんやり冷たい、といった経験もした。モノを作り込む技術屋気質の厳しさは人体をも変えてしまうことを知った。