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Calamities

2007年6月

薔薇の温室はなぜ倒壊したか?


Calamities01

 

著者_Kenneth Russell氏
米マサチューセッツ工科大学 名誉教授

 

 暗い嵐の夜だった。その温室は、番人よろしく、外の荒れ狂う雪嵐から室内の貴重品種を保護して建っていた。栽培担当がひとり、室温調整など必要な処置を講じながら、温室の中を通り抜けようとしていた。そのとき、見上げた彼の眼に飛び込んできたのは、温室の屋根が反対側からすごい勢いで崩落してせまる光景だった。出口へと駆け出した彼が、出口に届くが早いか、その大構造物の全体がつぶれて地面に叩きつけられた。残ったのは哀れにもねじれて折れたアルミ建材と砕け散ったガラス、それに、花屋の店頭を飾り、あるいはバレンタインデーに恋人への贈り物となることなく終わったバラ、バラ、バラの残がいだった。

犯行現場
  温室は実際には軒を並べる形に5棟が立ち並び、屋根はそれぞれに切妻形状ながら、壁面は共有していた。この全ての構造が倒壊していた。被害総額はたぶん数百万ドルに上った。温室の保険業者が支払額に動揺したのも道理で、この事件を巡って誰かほかに対価を支払う者を探しはじめた。

Calamities02

断裂したとい支持鋳造材

原因究明
  保険業者はわたしのところにその温室からの残がいをひと箱持ち込むと、いつもの通り「この原因を究明して下さい」と言い残した。フレームは加工されたアルミ(おそらく型押し出し成形)の斜角部材で、アルミ合金鋳造物にボルト接合されていた。
  わたしの検証は、合金と斜角の化学分析、および金属用顕微鏡による合金の調査だった。掲載図はおよそ100倍の倍率に拡大した、鋳造の磨いた部分を示す。大きな断裂は倒壊の過程で生じた割れ口であり、黒く見えるスポットは小さな間隙を示している。
  水素はアルミ鋳造を害する要素となる。溶かして鋳造したアルミは大気中の水と反応して酸化アルミニウムとなるが、この一方水素は溶解して拡散する。水素はアルミの固体中ではほとんど溶解できず固形化する過程で、液体の中に溶け出す。この結果が掲載図に示すスカスカ泡沫となる。鋳造の強度はこれによりひどく弱められる。鋳造部の化学分析によれば、水素の許容含有量のおよそ100倍がここに含まれていた。
  アルミ鋳造の工程で水素を除去する方策がいくつかある。しかしこの鋳造工場はどんな方策も採らなかったことは明らかだった。

決定的証拠
  鋳造工場の手抜きか! いやそうとは限らない。鋳造工場と顧客は、折り合いのつく価格で適正な製品を確保するために、一致共同しなければならない。もしもこの鋳造物が玄関の照明ブラケットのような装飾的なものであれば、水素除去のためのコスト増は顧客には受け入れ難いだろう。どれほど両者間で意思疎通があったのか、わたしには分らなかった。加えて、この温室製造業者は、過去に北部でビジネスの経験がなかった。彼らの他の温室建造物は竜巻やそのほか南部でダメージを起こす可能性のある事象への対応策はあっても、雪の堆積への対策はなかった。エンジニアならば、過失の補完的な要素を探すところだ。この場合は、弱いスカスカ構造の鋳造に、予期せぬ雪の堆積が加わったため倒壊に至った。この事例は「コロシアム倒壊」の事例と類似している。そこでは、雪の積層、疑問の余地のある溶接、さらにもっと疑わしい設計が屋根の倒壊につながった。損害額は甚大だったが、誰ひとり命を失わず、怪我もしなかったのは奇跡といっても良い。
  『Cool Hand Luke(邦画名:暴力脱獄)』という映画のなかの看守長の言葉に「ここでは意思疎通に失敗した」と言うところがあるが、この事例でもその失敗はひどく高くついた。


Ken Russell氏

著者情報
Ken Russell氏(kenruss@mitedu)は米マサチューセッツ工科大学の金属学及び原子核工学の名誉教授である。彼は金属物理学、法金属学、故障解析を専門としている。今回紹介されたケースは彼の法的ファイルより引用した。

 

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