787ドリームライナーは、機体各部の圧力差を検知して安定した航行を実現し、飛行機酔いを防止する
旅客機が乱気流に入ったときのことを想像しただけでも気分が悪くなりそうだ。機首が持ち上げられ、下がり、再び上に持ち上げられる・・・。同時に巨大な機体が左右に揺れたり、傾いたりする場合もある。このような揺れは2〜3分間続く場合もあり、そうなると、フライト慣れしている乗客でも、念のため目の前の背もたれのポケットに入っている備え付けの紙袋に目をやらずにはいられなくなる。
米Boeing(ボーイング)社(http://rbi.ims.ca/5393-595)のエンジニアは、こうした揺れを防止するか、少なくとも緩和する方法の開発に取り組んでいる。同社では、787ドリームライナー(http://rbi.ims.ca/5393-596)に、機体が突風や乱気流にぶつかったときに発生するピッチ、ロール、ヨーなどの揺れを抑え、より安定的に航行するための技術を搭載しようとしている。
ボーイング787システムのチーフプロジェクトエンジニアを務めるMike Sinnett氏は、「飛行機酔いの原因となる周波数応答と周波数帯域に注目した」と言う。「1〜5秒間継続する各種の現象に着目したところ、機体には、対処するべき周波数応答がいくつも存在することが分かった」
実際、787型機は245トン(54万ポンド)もの重量があるので、エンジニアが対処するべきことが多いのは当然である。一般的にこうした重量物は、かなり強い突風に対しても、瞬間的に反応することはない。
しかし、ボーイング社の快適性向上技術の革新は、機体の重量にあるのではなく、エレクトロニクスとソフトウエアにある。機体の安定性を維持するために同社のエンジニアは、自動車の安定制御システムに用いられているような技術を組み合わせている。まず、機体の各部に取り付けたセンサーによって角速度と圧力分布の変化を計測する。例えば、ヨー、ピッチ、ロールなどの揺れの原因となる突風は、ジャイロセンサーが検知し、記録する。同様に、機体にかかる垂直および水平方向の力は、加速度計が計測する。また、圧力センサーは、多くの外気吸気ポートを通して機体表面上の圧力分布の変動を監視する。
こうしたすべてのセンサーデータは、機体の各所に配置した中央演算処理装置に送信される。ボーイング社のエンジニアは、膨大なセンサーデータの処理に使用しているマイクロコントローラの種類や数を明らかにしようとしない。しかし、一般的な大型の旅客機では、100以上の電子制御モジュールを搭載し、それらを数個のマスターコントローラによって統括制御している。
飛行中、これらのコントローラはデータを取り込み、独自のソフトウエアアルゴリズムを利用して実行する動作を決定する。次にコントローラは、フライバイワイヤー技術を使い、ラダー(方向舵)、エレベータ(昇降舵)、スポイラ、エルロン(補助翼)、フラッペロンを駆動する各電気モーターに動作信号を送る。その結果、機体はこれらの操縦翼面を自律的に駆動して、突風に対する自らの慣性応答を修正する。
「例えば機体が横から突風を受けると、それに対する反作用を抑えることにより、機体が受ける影響を弱める」とSinnett氏は言う。
実は、他の航空機メーカーも、過去に同様のシステムを導入したことはある。しかし、ボーイング社のエンジニアによると、787の快適性向上技術は、これまでとはレベルの異なる最先端の新技術だという。
「この技術では、単に慣性応答を検知して抑制しているのではない。圧力差を検知して、機体が慣性応答する前にその圧力差の影響を弱めている」とSinnett氏。
例えば、機体が水平方向の強い突風を受ける場合には、システムは垂直尾翼上の圧力差を計算し、ラダーを動かして対応する。
こうしたすべての制御動作は、機体が慣性応答する前に行われる。このため、同社のエンジニアは、このシステムを非公式に“突風抑制システム”と呼んでいる。
機体の慣性応答を予測する機能によって、このシステムは、従来の技術から一線を画したものとなっている。このシステムにはまた、乱気流による乗客の飛行機酔いを軽減する効果もあるだろう。
専門家によると、航空宇宙産業は、すでに数年以上前から、旅客機でこのような技術を実現しようと取り組んできたという。
バージニア工科大学で航空工学を専門とするRakesh Kapania教授は、「大型航空機では、迎え角の変化と、それによる揚力の変化までの間には、つねに時間遅れがある」と言う。「数学と物理をうまく使えば、この時間遅れについてうまく制御できるのは確実だ」